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□君のための電話線
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ディスプレイの時計の針が0時を指す。
ソレを始めの合図としてぎゅっと目を瞑り携帯が壊れるのではないかという程強く通話ボタンを押した。

『・・・。』

恐る恐る耳を当てて呼び出し音を聞く。
電子音が響いてこのまま出なかったらしょうがないよな、なんて消極的にでたわけだが、プツリと切れた音に体を揺らした。

「はい。」
「ぁっ・・・」
「もしもし?」

受話器の向うから彼の声が響く、掠れていないのでどうやらまだ起きていたらしい、確かめてから名前を呼ぼうと開いた唇だったが渇いてた喉が張り付いて言葉に詰った。

「?隆也だよね?」
「は、はいっ」

確認する意味で言われたそれに息を吸いなおして返事をすれば、あまりに元気がよすぎたのか少しの間の後、如何したの?と苦笑混じりに言われる。
恥ずかしくて俯いてしまうけれど逃れる術はないのでぐっと堪えた。

「珍しいね」
「うっ・・・あ、の。」

いちいち歯切れの悪い台詞に、とりあえず落ち着けと彼から声がかかる。

「はい、しんこきゅーう」
「はい・・・。」

その言葉と共に吸って吐いて、少し前にもやったこの行為が今は少し効果があるように思えた。

ところで、彼は今日が何の日だか知っているのだろうかと落ち着いてきた頭でふと思う。

突然にしても今やろうとしている在り来りといわれれば在り来りの行為に、これから如何したいのか知られているのならばサプライズとしては滑稽すぎる。

「あの、今日って何の日だとかわかります?」
「え?今日?・・・・・んー?あれ?今日って何日?」

わかっていないのは都合がいいはずなのに脱力してしまうのは、此方の緊張感とはまるで反対の雰囲気だからだろう。

「・・・えっと、」
「?」

ふん切りのつかない自分の意識に、このままではイライラさせてしまうかもしれないと思うのに、それでも中々言い出せない。
今彼に直接言う事を考えても十分照れるのだが、また其の後のことを考えると死んでしまいそうに恥ずかしい。

自分にとって彼は、人の決意を汲み取って声を掛ける人なので、心のない言葉を口走る人ではないのだが、
嬉しいと言ってくれるかも不安で、それだけ?なんて言われたら勝手にやった自分がまた勝手に傷つく気がした。

言われる事が嫌なのではなく、どんな言葉でも返ってくれば嬉しいという思いとは別に、傷つく自分を嫌悪する。
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