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□白光の雪
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悔しいけど、悔しくない。
「言ってくれねーの?」
「・・・言いませんよ」
何を求めてるか知っているけど口を噤んで、聞こえるブーイングの声に笑ってしまう。
「会ったら、言ってあげますよ」
ただ単に電話で伝えるのが勿体無い気がしたからで、だから昨日の夜一番最初に「おめでとう」と言うのを諦めた。
きっとどんな風にいっても彼は同じだけ喜んでくれる。
変な自身があったから
「本当?」
「本当です。」
自分の体温が上がっていくのがわかる。
寒さなんて感じないほどには発熱していた。
「じゃ、早く来いよ。迎えいこうか?」
「駄目ですよ。寒いんですから家にでも引きこもっててください。」
「・・・引きこもってって・・・」
電車が来るアナウンスが入った。
一言断って電源を切る。
彼は大人しく家で待っててくれるだろうか・・・そう思いながら乗り込んだ車内は今の俺には暑すぎた。
電車を降りて駅を出た先で目にはいった人物に「ふう」と息をつく。
同時にトクリと心臓が鳴った。
「家で待っててくださいって言ったじゃないですか・・・」
「会いたくって待ってられなかった。っていったら怒る?」
怒れるわけ無いじゃないかと眉を寄せて、何もいえないまま俯いた。
彼がただニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて笑っているのがわかっているので更に恥ずかしい。
「ね、隆也」
呼ばれて頭を上げた気でいるけど、それでも俯き気味だと思う。
彼の表情は上手く見れなかい、そんな俺に苦笑を漏らすのがやっと見れる口元でわかった。
手が差し出されて頬を包み込みゆっくりと上を向けさせられる。
「会ったら言ってくれるんじゃなかったっけ?」
目があって、その薄く開いた唇が緩やかな弧を描きながら催促をする。
頬を包み込まれたその現状が、何をとられたわけでも無いのに人質を取られたような心境にさせた。
言わなければ開放してもらえないことはわかっているから、すっと静かに息を吸ってゆっくりと緩やかに彼の望んでいた言葉を吐き出す。
「・・・誕生日、おめでとうございます。」
にこりと嬉しそうに笑った彼の表情が、積もったばかりの光る雪と眩しいばかりでちっとも温かくない太陽で影って見えない。
残念に思いながらもやっぱり笑ってくれたことに、嬉しくなって目を細める。
「ちゃんと名前も呼んで。」
「・・・準さん、おめでと。」
駅前だというのに雪のせいか人は居ない。
新雪に埋もれたような風景が、二人だけの世界のようで雰囲気に流されるように、だけどしっかりと意思を持って彼にキスをした。
驚いて一瞬ピクリと動いた瞼が近づいたおかげで見えて嬉しくなりながら、ゆっくりと唇を離した。
「プレゼント」
買いに行く暇がなくて、こんなものですいませんと謝ったら、此れが一番嬉しいかもとおどけて笑う。
「ありがとう、隆也。」
「どういたしまして。」
二人で噴出してどちらからとも無く手を繋ぐ。
引っ張られて収まった腕の中は驚くほど温かい。
「・・・家、行こうか。」
「そうですね。」
此処の場所は暖かいのだけど空気はやっぱり冷たくて、その証拠にまたハラハラと雪が舞いだした。