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□空の輪
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部屋の中心に敷かれた絨毯に寝転び、邪魔だからと彼の弟の部屋のテーブルを我が物顔でどかしていた。
其の姿は、ぱっと見普段キッチリしているように印象付ける彼の、どこかだらしない一面だと思う。
そんなところが彼と良く似ているな、阿部はそう思いながらソファに座って様子を見ていた。

窓から差し込む日差しを追いかけて暖を取っているようで、其の姿が猫のようだと思う。

「…」

ベランダから流れる風が、彼の少し長めな髪の毛をふんわりと揺らしていた。
眠そうな目で外を見ている彼をじっと見ているとうっかりこっちまで眠ってしまいそうだと思う。

阿部はとろりとしだした自分の瞼をこすり、頭を振ってぼんやりとした意識を散らした。

「…眠いの?」

いつ此方を向いたのか、阿部の心臓が少し飛び跳ねる。
仰向けになった彼の前髪が重力に負けて広がり、普段隠れている額が除いた。
やっぱり似ていると思う。
双子でもないのにこれほど似るのは、すごいことなのではと思ってマジマジと見つめると、優は目を細めてニコリと笑った。

「眠いの?」

もう一度同じ事を聞く彼がフラフラと阿部の方へ腕を伸ばす。
手の届く範囲には居ないが、腕を引っ込めようとはしなかった。

「特に眠いわけじゃ…」

先ほどぼんやりとしてしまったのは、目の前の彼が余りに眠そうでつられてしまっただけだ。
我に返ればそんなに眠いわけではない、阿部は頭を振り優に答えを返した。

「じゃぁ丁度良いや」
「?」

何が丁度いいのか、そんな意味のわからない事を言いながら優は手で阿部を招いてみせる。
手招きする彼に少々警戒しながらもソロソロと近づいていくと、その様子に苦笑した。

ただその表情のみで何をするかは相変わらずだんまりであり、阿部の緊張は解けず、辛うじて捕まえられるギリギリのところまでよっていくのが精一杯であった。

「なんですか?」
「そんなに怖がらなくてもいいのに」
「こ…怖がってません」

不機嫌を露わにする阿部に、クックと喉の奥で響かせるような優の笑い声が耳に付く。

「まぁいいや、…俺枕無いと寝れなくてね」
「はぁ」

枕を取って来いというのだろうか、優の話をさわりだけを聞いても一切わからず、彼の話に耳を傾け続ける。
寧ろ、それならば彼の弟の寝ているベッドでも使って寝ればいいのに、そんな考えを浮かばせた。

「だから、ちょっとなってくれないかな?」
「…へ?」
「枕だよ、枕」

驚きにぱちぱちと瞬きを繰り返し、聞き返す。
優は相変わらずの表情で引きずるように体を動かし、立ち尽くしていた阿部の足を掴んだ。

「『いいですか?』『いいですよ。』『ありがと』はい、じゃぁこっち来て」

早口に一人で会話を成立させる優が、半ば強引に阿部を座らせようとズボンを引っ張る。

「え!?ちょ、言ってなっ…引っ張らないでくださいよ!あぶなっ……」

阿部は慌ててもつれ倒れそうな体を立て直し、これ以上ふらつかないよう彼の思惑通り身を屈めた。
それでも優は変わらずにもっと近くへと阿部を呼ぶ。
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