series SxA(first love)

□今、此処でキスをして
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意味も無くついていたテレビから聞き覚えのある曲が流れてきて阿部は顔を上げた。

確かに聞き覚えのあるフレーズに
何処で聞いたんだっけ、と首をかしげ雑誌を捲る手を止めて考え込む。

あっさりとした愛を謳う歌、昔はわからなかったけど恋人のいる今となってはわからなくも無いな、とそこまで考えて、何故この曲に聞き覚えがあったのかを思い出す。

阿部はテレビに向けていた視線を隣の部屋でじっと机に向かって勉強する彼に向けた。
センターも終わり、もうすぐ大学試験だという島崎は最近ずっとあんな感じで、
阿部がどう考えても邪魔になるから部屋には暫く行かないと言えば、首を振り断固としていやだと言う。

「だめ。隆也が居た方が集中できるし」

どういうことなのかと訝しげに聞いても、あとはただ一言「休憩の時とかに癒されるし」としか返ってこなかった。
結局根本的な事はわからないまま、居た方が勉強できるならできる限り一緒に居ることにしようか、そう思って此処最近通いつめているのだ。

テレビはつけていたら煩いのではと思っていたが、つけてていいよと有無を言う前につけられて、せめてもの抵抗に音量を下げて偶にぼんやりと視線を送っているくらいだった。


『って、なんの話だっけ・・・?』

島崎のことを考えていた阿部の頭の中から、今まで考えていたことがすっぽりと抜けてしまってコロリとソファに横になり思い出す努力をする。
既にテレビからはその今日は流れておらず、耳を傾けるのも無駄で、むしろ雑音であった。

チカチカと忙しない色の微粒から目を逸らし、うーん、となるべく声に出さないように考え、目の端に映った、見ていなかったテレビに「あぁ」と思い出す。

『そだ、あの曲・・・』

どんなフレーズだったかを思い出す為に目を瞑る。
手探りでああでもない、少し違う、と思い出すのにテレビから流れる他の音が邪魔でブチリと電源を切った。

その音に反応して島崎が机から阿部へと視線を映したが、思い出すことに夢中な阿部はそれに気づかず、近くにあったクッションを抱え、顔を押し付けながら模索を繰り返す。

『・・・かわい』

島崎がそんな阿部を遠巻きに見ながら頬杖をつき笑った事にも彼は気が付かない。

休憩、と心の中で呟き椅子から立ち上がる。
何か考え事をし続け、此方に見向きもしない阿部に近づきながら苦笑をもらした。
気持ち静かに近づいていき、ソファの背もたれに体重をかけて阿部を覗き込むようにして声を掛ける。

「なーに考えてるの?」
「わっ・・・び・・・っくりした・・」

パチクリと大きな目を大きく開き瞬きを繰り返す阿部に笑顔をむけ、頭をなでた。
目をまん丸にしていた彼は次第に細めて恥ずかしそうに顎を引き、少しだけ俯いてみせる。

その小さな仕草に島崎は顔をふわりと綻ばせた。

「あー、やっぱ癒されるなー。」
「っ!…な、なに馬鹿な事やってるんですか・・・。」
「んー?充電中。」

島崎が阿部の頭においていた手をスルリと彼の後ろに移動させ、そのままもたれかかるようにして抱きしめる。
阿部は、緊張してしまったのか体を強張らせ声をどもらせ、その触れる感覚だけで目で見ずともその表情が容易く想像できた。

馬鹿な事と言いながら抵抗もしようとしない阿部が、視線をさ迷わせ強く抱きしめられるその腕の中でおずおずと腕を返すのにそう時間はかからない。
外で運動しているわりにはやたらと白い、島崎にそう評される腕が彼の服に指をかけ、引掻くようにしがみつく。

色が白いと優しく撫でれば、貴方に言われたくないと、
付き合った当初えらく気に入った指先にそう褒めた時、阿部は複雑そうに笑っていた。

「隆也」
「ん…」

名前を呼んだだけで艶っぽく返事を漏らすその声色に島崎はゾクリと背筋を震わせてさらに腕に力を込める。
苦しいと文句をいうことはわかっていたし、それでも弱々しい手つきで跳ね除ける事すら彼はしないだろうと知っていた。
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