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□君のための電話線
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女性曰く、誕生日は恋人に一番にお祝いをして欲しいと、テレビだろうか、どこかでそんな事を聞いた。
おめでとうと言って欲しいとキャイキャイ騒ぐ彼女達に男のあの人を重ねたわけじゃないけれど、自分がやられていると仮定すれば確かに嬉しいかもしれないと確かに思った、だから行動してみようと思ったのだ。
ベッドの上に座り込み、充電中の携帯電話を握り締め時計をチラリと見やる。
今日が終わるまであと5分そう知らせる時計に緊張して目をそらした。
早く5分経ってほしいと願いながらも、心の準備の為に幾ら時間があっても足りない気がして矛盾が心を過ぎる。
「・・・。」
眠っていたらどうしよう、勉強をしていたら邪魔じゃないだろうか。
不安が渦巻く中でぼんやりと見ていた時計の針が一歩進んだ。
横に寝転がる事もできないまま、まるで自分の部屋じゃないかのように畏まって携帯を見つめる。
ぎゅうっと目を強く閉じて、そっと開いても変わらない現状に、思考回路がグルグルと回って爆発してしまいそうだと思う。
「っ・・・深呼吸ッ」
気づけばもう3分前、別に声に出して言わなくても言いのだが覇気を付ける為に声を張って音を出す。
吸って吐いて、ただそれだけだが落ち着くはずの行為も今の自分には効果がないように思えてならない。
やり続けているうちに途中で吸っていいのか吐いていいのか次の行為はどちらなのかわからなくなって苦しさに咳を漏らす。
「・・・こほっ。」
何やってるんだ、とそんな行為に恥ながら自分以外誰もいない部屋で俯いた。
時間がないと焦りながら落ち着く術を考え何故か数を数えてみたりして、それでも時計がまた一歩進んだ。
カチリという普段気にならないような小さな音がやけに響く。
『どうしよっ・・・』
其の音にビクリと体が揺れて、真っ白な頭で数を数えるなんて意味を成さないことがわかり唇をきゅっと噛みしめた。
『・・そういえば、電話するのはじめてじゃん・・・。』
考えれば考えるほど如何すれば良いのかわからなくなる。
何度もやめようかと思うが、彼が喜んでくれるのではないかと思うと、直ぐに諦める事はできなかった。
無意識に震える手が二つ折りの携帯をパカリと開いて、時計を確認すればあと1分。
つい3分前よりも大きな不安が頭の中を巡り回る。
カチカチと携帯を操作して彼の名前まで出すのに通話ボタンを一向に押そうとしない指が躊躇いを強く表していた。
早くしなければ、あと数十秒で時計は明日の日付を示してしまう。
もしかしたら同じことを考えている人だって居るかもしれない、とても低確率だが居ないとも限らないのだから早く押さなければと自分を急かし指に力をこめる。
『・・・0になったら押そう。』
手持ち無沙汰の片手をぐっと強く握り締める。
ある一種の決意だった。