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□白光の雪
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珍しく今日は雪が降った。

いつも降るっていう割にはまったく降らないから気にせず寝て、外を見たら一面銀色・・・とまでは行かないが薄く積もっていた。

「・・・さむ・・・」

寒い室内に文句も言いたくなる。

ただ、雪を睨みつけるのは寒さのせいではなくて外に出れるかどうかの心配のせいだ。
駄目だと止められても出るけど、と手に息を吹きかけて暖をとる。

見た感じそんなに酷くは無い、あの人の家くらいすぐにつく。

雪にはしゃぐ子供のような浮かれようだけど、浮かれてるのは雪のせいじゃない。
寒い部屋で服を脱いで、着て、コートを羽織ってマフラーと手袋をして、外に飛び出した。

こんな日に外に出るなんて子供じゃないんだからと怒るようにいう母の顔は何となく嬉しそうで機嫌がいい事がわかる。
母は雪とか、子供が喜ぶようなものが好きだ。

『どっちが子供だか』

天気一つで機嫌が変わる母に密かに苦笑を浮かべた。


雪の日は傘を差したほうがいいのか、差さなくてもいいのか何時も迷う。
サラサラでは無い雪は服に張り付いて気が付いたら服が大雨に濡れたような重量になっていたりするからきっと差すものなんだろうけど、ハラハラと落ちるそれは掃えば全て落ちてしまいそうに思える。

ただ、やっぱりこんな日に傘を差していないのは変なんだろうと見られるのが嫌で傘を手に取った。
薄くぼやがかった白色の傘は買った覚えが無いのに家にあるというものだ。

雪が邪魔で自転車に乗れないから駅まで歩く、自転車だと結構直ぐなのに歩くと遠い、手袋をしてても冷える指先に傘を持ちながら包み込むように握った。
とても寒いはずなのに普段と違う道に思わず笑みを浮かべた。


近くの駅はそんなに大きなものでは無いので、中に入っても空気の温度は変わらない。
温かそうなのは密閉された空間でストーブを囲った駅員くらいだ、ホームに客なんて居ないから納得といえば納得。

今日は風が少ない日だから室内でも外でも一緒だなとホームへ上がった。

数段しかない階段を登って電車を待つ、電車の中はきっとあったかいだろう、そう思ったときにポケットの中で携帯が震えた。
誰からだろうと確認すればこれから会いにいこうとしている人物だ、タイミングがいいと電話に出る。

「はい」
「よ。」
「どうかしました?」

今から会いに行こうとしていることは取りあえず伏せて電話の用件を聞く。

「ん・・っとさ」


言いにくそうに口ごもる。
そうする時は大体言おうか迷っている時だと最近知った。

いつもは何故そうなるのかわからないけど、今日は何故そうなったか理由をわかっていて、口ごもる彼の変わりに先に口を開く。

「あ、いにいっても。いいですか?」

自覚は無いけど緊張してしまったんだろうか、最初の「あ」の字が上ずった声になる。
一息に長い台詞を言ったわけでもないのに息をついた。
気が付いたら心臓が高鳴っていて、それに動揺する。

たっぷりと時間をかけて電話の向うで彼が笑う声が聞こえた。

「なに笑ってんですか・・・」
「いや・・・可愛いかったから」

声が上ずってしまった事をいっているのだろうか、だとしたら冷静を装っていただけに恥ずかしい。

「隆也知ってるだろ?今日。」
「・・・まぁ、しってますよ。」

当たり前じゃないですか。という言葉は飲み込んで、何の為に今日朝から浮かれてると思っているんだという突っ込みは心の中でした。
受話器の向うできっと嬉しそうに笑っているであろう彼の姿が目に見えるようだ。
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