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□無知な人への恋敵宣言
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頬杖をついて空を見上げながらピクリとも動かない高瀬に、其れをしばらく見ていた仲沢が声を掛けた。
あまりに行動が少ないため気になって我慢できなくなったらしい

「準さん、ぼーとしてなに考えてるんですか?」

ぼんやりとした表情をそのまま仲沢に向け、酷く遅いテンポで反応を返す。
島崎ならばともかく、高瀬がこういった反応をするのは珍しいと仲沢はそれを見つめた。

お互いの目が合い、間があった後に高瀬が口をゆっくりあける。

「隆也君がうちの学校来てたらなと・・・あー、それだとお前に投げることはなくなるんじゃねーの、俺」

内容は、・・・・恋わずらい、とでも言えばいいのだろうか。

聞いても驚かない仲沢は知っていたのか、はたまた其れが自然だと思っているのか表情を変えることなく会話を続ける。

「・・・準さん、それどういう意味ですか・・・」
「そのまんま。和さんも認める捕手だぜ?」
「・・・それはそーですけど・・」

本当のことを言われて言葉が詰まる。
何か言い返したいと思いながら、言い返す言葉が出てこなくて喉元でつっかえた。

其の間も高瀬はぼんやりとした雰囲気を漂わして、一度コチラへ向いた視線をまた空へやる。

重症だなぁ、と仲沢は人事のように見た。

後輩にこんな事思われていていいのかとも思ったが、口には出さない。

「和さんもだけど慎吾さんもいいって言ってたよな」
「え、そうなんですか!?」

島崎が人を認めるということが何故か珍しい気がして驚いた声を上げる。
実際はそんな事ないという事に後で気が付いて、その場の雰囲気で驚いてしまったことが恥ずかしい。

「たしか細いわりに強気な感じでいいとか」

ぐるぐると自分の思考をめぐっていた仲沢が高瀬の言葉に目をパチクリと動かして、其の言葉の中身を理解したと同時に口元がヒクリと引きつった。

「・・・それって」
「つかうちの奴ら皆可愛がってたよな」

それは、まさか、と先ほどとは違った思考がぐるぐると回りだす。
高瀬の恋わずらいが導いた勘違いなのではないかと思ったが、思い当たる節があって、考えても解らないから遠まわしに聞いてみた。

「えっと・・・、焼肉でうちあげやったときですか?」

桐青全員で焼肉を食べに言ったとき、たまたま西浦の面子と出会った事が有る。
其の時最初に田島が仲沢に先人切って話しかけ、そのあと結局皆で盛り上がったのを覚えていた。

「そうそう、先輩には尽くす感じでわりと人気だった。気もきいてたし」
「うちら誰も取り行かないのに水とってきてましたね」
「俺はひたすら西浦の奴らを面倒見てたイメージがあるよ」

あぁ、そういえば。
向うの主将と一緒になっていろいろ走り回っていたのを思い出す。

そこで初めて阿部の顔はどんな感じで、どんな雰囲気を出していたのか一緒に思い出されて、想像の中に出てきた彼に意図せずポツリと思ったことを、そのまま声に出した。

「まぁ、・・・・顔かわいかったと思いますけど・・・。」

純粋に思ったことを言ってみただけだ。
この時点で仲沢に大した思惑もなく、自分が今どんな気持ちでこの言葉を言ったのかすら気にも留めていなかったが、そのかわり高瀬から其れを突きつけるような声が聞こえる。

「リオー」

いつもの調子で呼んでいるのかと思えば、決してそうではなく、何となくトーンの低い重い声だった。
しかし仲沢は高瀬の声の変化に気づかず、首を傾げながら呼ばれたことに「ハイ」と普通の返事を返した。

バチンと響いた音と額に広がる痛みに目を白黒させて高瀬の視界に移る指と顔を交互に見つめる。
何があったのかと瞬きする目で、デコピンをされたという事実に気が付くのに時間はかからなかったが、何故そうされたのかと解らず混乱した。

「へ?・・・は!?」

ジンジンと痛む額を押さえジワリと涙を浮かばせながら高瀬を見る仲沢に、高瀬はクスリとも笑わず、ただ無表情で睨みつける。
其の目にゾクリとした悪寒が背筋を登るのを感じて、仲沢は口をぐっと引き締め息を呑んだ。

「お前も、敵。」

そう言い放つと仲沢の横をすり抜けてその場を後にする。
其処にはただ意味が解らないままの仲沢が取り残されるのみだった。


『無意識でも無自覚でも、結果を見たらそれはライバルだろ』

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