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□大切な想いと想い人
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「・・・高瀬さん・・・お願い、します。」

彼、阿部隆也のお願いは神がかっていると思う。
多分、否・・・絶対に、だ
なぜかといえば断れたためしがないからなんだが、俺にも原因はあるのかも知れないけど、ただお願いしますというだけでも相当で普段願い事などしそうに無いほどに全部自分で解決してしまう彼だから、望むならなんでも叶えてあげたいと思って、出来ることならと何でも聞いてあげたくなる。
俺がこんなにも彼の「お願い」に弱いってわかってやってるんだとしたら質が悪いけど、多分知らない。
根拠は俺が出来ないようなむちゃな「お願い」は絶対しないことと、酷く心が弱っている時だけに使うことを知っているということ、其れは使うときは何時も決まっていて、泣きたくなる時にだけだし、其れは場所も決まっていて必ず俺の後ろでだけだ
だから彼のお願いと模る唇を見たことは無かった。

「いいよ。」
「す、いません・・・」

無理やり出したような声に気づかない振りをして胡坐をかいてソファーに寄りかかっていた自分の背中を浮かしてやれば
その間にするりと猫のように入ってきて体温を確かめるようにぴたりと重なる。
温かいはずの隆也の体は、何時もこの瞬間冷たくてドキリとするが決して表に出さないようにじっと彼の動きが止まるのをまつ。
隆也はいつも何も言わない、無理に理由を聞くのもどうだろうと自分も何も言わないが、その何も言わない空間に気まずさなんて存在しなかった。
でも、今日は違った。

「・・・高瀬さん・・・の、心臓の音が」

何時もと違うというのは気まずさがあるわけじゃなくて、言葉が発せられた事が、だ。
しんとした部屋に響き渡る言葉が途切れ途切れで、泣くなら早く泣いてしまえばいいのにと思う。
あと、欲を言うなら高瀬さんじゃなくて準太って呼んで欲しい。

「・・・・」

そこまで言って急に押し黙る隆也に続きが気になって後ろを向こうとするが慌てたのか隆也が身を引いて片手で俺の顔を前へと押しのけた。
其れが結構痛くて思わず声が出てしまった。

「・・・こっち見るのはダメです。」
「悪い、気になったもんだから」

彼の中で勝手に決められた法律の規約外だったんだろうと思って少し笑った。
背中が少し冷たくなっていく感じがしてあぁ、始まったなと目を閉じる。

「っ・・・・・く・・・・・・・」

俺を押しのけたままで止まっていた腕が響く嗚咽と共に段々下がっていって俺に絡みついた。
その手にそっと自分の手を重ねてさすってやれば更に力が込められる。

「・・・っく、ひっ・・・」

こんなに傷ついて、誰にも見られないように泣く子を救って上げられればと、彼が俺に縋るたびに思う。
理由がわからない事には手も出せないし、聞いても無理かもしれない、拠り所になってあげるしかできないんだろう、

『・・・力に、なってあげられればいいのに・・・』
「っ・・・・・・ふ・・・っく・・・」

背中を盾に泣き続ける彼の手を俺の肩越しに強く握った。
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