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□chocolate shake
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窓際で外の景色を見ながらそっぽを向いてしまった阿部を島崎は困った表情で見つめていた。

バレンタインという恋人が居れば重要な日に、阿部と居る事での期待を高めていた島崎にとって今の阿部の不機嫌さは死活問題にも抜擢するだろう。

ところで、何故こんなに彼が機嫌の悪いのかといえば、玄関においてある紙袋に問題がある事は明白だった。
袋にぎっしりとつめられた手作り感溢れるものから市販のものまでのチョコレート、こんなに食えるわけが無いと貰い主の島崎は多少呆れながら持ち帰ったのだ。

『まぁ、問題は食べる食べれないじゃない』

普段の見た目や態度よりも、相当やきもちやきな恋人はその紙袋に入った其れを見て、機嫌を一気に急降下させ、今の現状に至る。

やってしまったと思ってももう遅い、
紙袋に移していた視線を阿部に向けると、ぼんやりと窓の外を見る猫のような雰囲気を醸し出しながら、その窓に映る目にはゆらりと静かな嫉妬心を浮かべていた。

「・・・」
「たかや〜?」
「・・・」

ただ一言も喋らない代わりに、映る其の表情が呼びかけに反応を見せる。
ただ此方を向こうとはしないが、島崎はそれを見逃さずもう一度優しい声色で囁くように名前を呼んだ。

阿部は自分自身が映る窓のことなど気がついていないのだろう、いつもよりも鋭くなっていた垂れ目が揺れている。

もう一押しだろうか、そう思いながら島崎が多少距離のあった二人の間を四つんばいでソロソロ近付いていく、何となく気が付いているはずなのに逃げる気配が無いのを見ると、どうやら迷っているようだ。

「隆也」
「・・・。」

後から包み込むようにして抱きしめて、腕の中に阿部を収めきると彼はゆっくりした動作でやっと振り向いた。
其れと同時に回された島崎の腕、その指を阿部の手がきゅっと握り締める。

「隆也?」

彼の頬は仄かに赤くて引っ込みのつかなくなった子供のような顔をしていたが、次の瞬間瞬きをする阿部の瞳は我に返ったように自分の行動を恥じてバッと顔を逸らし、ついでに握り締められていた指も名残惜しそうに離れていった。

其の姿がやけに可愛くて、ぎゅうっと抱きしめ頭をなでてやると指を掴んでいた其の手で首に回る腕を引掻く感じで弱々しく掴んでくる。

『・・・大丈夫なのに・・・。』

阿部が今不安なのは、自分に嫌われないかだというのを島崎は知っていて、
そんな簡単に嫌えるならこんなに執着したりしないと思う、ただ思うだけで言わないのだけど。

島崎が阿部の額にその言葉の代わりのように口付けた。

縋っているような指先がピクリと反応して、阿部の其の動作が島崎の心をくすぐる。
こういう惑わす仕草が本当に上手いと思うが、彼はいたって天然でやってのけるので困ったものだ、と押上って来る笑いを噛み殺した。

「慎吾さん」
「ん?」

やっと聞けた声だけで嬉しくなるのはもう彼自身の中で『当たり前』の事で、ベタ惚れだと思うのも毎度の事だから自嘲も何もしない、というのは最近島崎の中で決まった事で、そんな笑いであっても自分へ向けるくらいならその代わりに優しく阿部に微笑む事にした。

有言実行といわんばかりにニコリと阿部に向かって微笑んで、其れを見て彼はどこか安心したようにふっと息をついた。

阿部の其の目からもう怒りの色はすっかり消えうせ、心臓がドクドクと大きく鳴りだす。
二人が張り付いているせいだろう、背中から鼓動直接伝わることに島崎が心地よさそうに目を細めた。

『全部自分のせいだと思うと嬉しくて・・・、舞い上がりそうになるってこういうもんかな。』

島崎はそうやってじわりと全身に伝わる其の感覚に胸を高鳴らせながら、体の芯がじんわりと熱くなっていくのを感じてそれを押さえつけた。
今は体を繋げるよりもただ体温を感じていたい、そう想って自分に寄せる彼の体の温かさに目を細めた。

『・・・すっごい、・・・・』

好きだけじゃ収まりきれない程の想いなのに其れより上の言葉が見つからなくて断念する。
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