Long Story
□恋
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「阿部ってさ〜……好きな人、いる?」
次の日の休み時間。
俺の席の前に来るなり、水谷がそう言ってきた。
「……なんだよ、いきなり」
前触れもない質問に、俺はびっくりした。
「ん〜、なんとなく!」
なんだよ、なんとなくって。
……てっきり、俺が外にいる三橋を見ていたことに気づかれたのかと思った。
「で?いるの?いないの?」
「さあな」
「えー!?」
絶対水谷には教えてやんない。いや、水谷じゃなく他の誰でも本当のことなんか言えねーけど。
「つーか水谷。そんなこと聞いてどうするんだよ」
「ん〜……好きな人いるかいないか教えてくれたら、話してあげる!」
「はぁ!?」
本当に人を苛々させるヤツだな。
……でも、水谷の質問の意図は何なのだろう。いや、きっとろくなことじゃないとは思うけど。でも、気になる……。
「で?阿部は、好きな人はいるの!?」
「……いない」
気がつけば、俺は答えていた。
……そうだよな。
俺は、三橋を好きだという感情を殺している。
だから、好きな人はいない、ということになる。
うん。俺に好きな人はいない。
「……マジ!?」
俺が素直に答えると、水谷は急に身を乗り出してきた。
「……」
なんだよ。さっきまでへらへらした顔してたと思ったのに。
「も、もう一回聞くよ!?阿部は、好きな人、いない……?」
「……いない」
おう、いないぞ。
自分にも言い聞かせるように、強く言った。
俺は三橋を好きじゃない。
「……そっか、そっか〜…へ〜…阿部は好きな人、いないのかぁ〜へへへっ」
……今日の水谷はマジでキモイ。そしてムカツク。まるで好きな人すらいない俺を馬鹿にしているみたいだ。
「で、水谷。好きな奴いないって教えたんだから、質問の意図を聞かせろよ」
これで教えないとか言ったら殺すぞ。
「ん〜……じゃあ、今日の放課後、部活の前に、屋上に来てよ!そしたらわかる!!」
「……はぁ?放課後?屋上?」
「そうそう!絶対来てよ!?ってか、俺も一緒に行くから!」
「………」
「じゃ、俺、9組に行ってくるから!!」
そう自分の言いたいことだけ言って、水谷は行ってしまった。
俺は軽くため息をつき、さっき水谷に言われたことを心の中で復唱した。
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