◆灰novel◆
□蝶と蜘蛛
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深夜でも煌々と明かりに照らされ、人波の途絶えない街中。
行き交う人々の中に、一風変わった雰囲気を纏う人物が居た。
服装は若者らしい、いたって普通の出で立ちだが、腰まで届く、長く美麗な黒髪は柳の様に風に揺れ目を引く。
そして、その服に似つかわしくない、黒のショールをマフラーのように首に巻いている。
髪よりもさらに長く、足首まであるソレは、その人が動く度にヒラリと舞い、優美な蝶の羽のようだ。
端には小さな鈴が結ばれていて、歩を進めるリズムに合わせて、涼やかな音を響かせていた。
「……あの」
掛けられた声に振り返ると、見えたのは白い頭。
視線をおろすと、自分よりもやや小柄な少年が見上げていた。
「アナタが噂の占い師さん?」
無言で見つめ返すと、少年は嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱり。目印がこのマフラーと鈴だけだから、見付けられないかと思ってました」
暫くその少年はジーッと見つめていたが、おもむろに口を開くと
「えーと…もしかして、もしかしなくとも…神田先輩じゃないですか?」
「お前…」
覚えのない奴から自分の名が出た事に、占い師と呼ばれた少年、神田はあからさまに不愉快な顔をして見た。
「あ、僕も鳩羽高校の生徒です。一年のアレンっていいます。先週越して来たばかりですけど…神田先輩って綺麗で有名だから」
あまり回りに溶け込まない性格だが、整った容姿のためか、学校内でも神田はよく知られる存在だった。
やめろと言って無くなるものでもないので放っているが、やはり勝手に自分の話が囁かれているなど、悪い内容でなくともいい気はしない。
ましてやこの瞬間、新たなネタが付加される事になったに違いないのだ。
血筋の者が代々続けてきた、流しの占い。
今まで誰にも気付かれなかった事が不思議かもしれないが…。
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