RKRN二次創作 戦雲の月、その影を
□序
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木の上。
一人の男が、ひらりと飛び降りてきた。血の付いた短刀、そして漆黒の装束。鼻まで覆っていた布を静かに下げる。
そこには、二十歳程であろう若者の顔。
満身創痍の男、潮江文次郎は、月明かりの下で、その疲弊しきった顔に、苦々しい笑みを貼付けた。
「お前こそ、ゼンマイ城現忍組頭にして、元忍術学園六年は組、用具委員長食満留三郎とあろう者が、手負いの忍びに守られた敵方の若君一人殺せないのか」
追っ手の男、食満留三郎の眉が、ピクリと動いた。短刀を握る手に力が入る。
「なるほど、文次郎。もう逃げる必要がない、と。若君を忍術学園に逃がしたのは上手い手だ。いくら俺でも、そう簡単に六年育った場所を、簡単に斬り捨てることはできない」
留三郎の自嘲するような笑い声に、文次郎はひどいクマの目立つ目を光らせ、一人ほくそ笑んだ。
脇腹からは、依然として血が流れ続けている。
「まあ、良いだろう。殿もお前の首を差し出せば、我が忍軍に褒美をくださる。それで我慢してやるよ。姫君も、殿の元にいらっしゃるわけだしな」
下を向き、口元をニッとつり上げてそう言った留三郎。一瞬だが、文次郎の表情が陰った。
それもつかの間。先に地面を蹴ったのは、深手を負った潮江文次郎のほうだった。クナイを構え、鬼神の如き表情で襲いかかる。
月光に、クナイの先端が光った。
その輝きを切り裂くように、留三郎は短刀を振った。
火花を散らせ、二人の獲物がぶつかり合う。
深手を負っている文次郎。だが、決して力負けすることはない。
血が抜け、青白い月の下で、蒼白になりながらも、気力で踏ん張っている。
「学園時代、お前とはしょっちゅう戦ったもんだが、表情が違うな」
「変わるさ、幸左衛門様が落城で自害され、姫君は貴様らに連れ去られ、若君は、若君はご自身の記憶を失った! 死ぬ前に、一矢、一矢報いずにいられるか!」
文次郎はそう叫ぶと、素早く、左手でもう一本クナイを掴み、そのままかつての友へと振り上げた。
不意打ち、のはずであった。
だが、行動は留三郎のほうが速かった。
素早く体勢を低くし、二本のクナイは虚しく宙を切る。
と、その頃には文次郎のみぞおちに、拳が深々と入り込んでいた。
口から吐物を吐きながら、文次郎は飛ばされ、叩き付けられた木の葉の上から立ち上がることができなかった。
「……文次郎」
意識を失い、苦しそうな表情で倒れる友を見下ろし、留三郎は何事かつぶやき、そして、再び覆面を鼻まであげた。
静かに短刀を構える。
月が照らす。
短刀が煌めく。
振り下ろして、風を切っていく。
その時だった。