gift&present
□少しは何か変わりますか
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「好きだよ。」
好きな人ができた事なんて一度もなかった。
そもそも、“好き”と言う感情自体が何なのか分からなかったし。
だから、初めてこの人を見たときに一瞬だけ高鳴った鼓動が、所謂“一目惚れ”というやつだと認識するまでには時間がかかった。
さて、なぜ私がこんな話をしているかと言うと、今まさに先ほど話していた相手が私の目の前に居るからである。
また、先ほどの話は後日談であり今はまだ、異性に対する“好き”なんて甘酸っぱいものは理解していない。
「俺の話聞いてる?」
『え、あ、はい。』
燃えるような真っ赤な髪が目の前で揺れ、また髪色と同じく光目は私を見つめていた。
赤司征十郎はとんでもない完璧麗人だ。
テストなんて毎回学年トップだし、強豪なんて揶揄される男子バスケ部の副主将で、すっごい名家の家の子で、なんたって美形。
「なにそのファンタジースペック。」と羨むどころか、ちょっと引いてしまいそうになるぐらい。
彼は一般人とは一線引かれたような存在だ。
「それで、どうする?」
『え?』
「え?って、やっぱり聞いてなかったのかい?」
フッと微笑む彼の表情は、とんでもなく絵になるもので。
同級生の男子共がそりゃあ霞んで見えるだろうと思う。
『いや、聞いてましたけど。』
「…やっぱり面白いね。名字は。」
『……はい?』
クツクツと笑う姿はやはり年相応の幼さはあるが、どこか違うような気もする。
でもその姿を見て、鼓動が早くなっているのは確かだった。
「だって、普通男とこんな体勢で居たら、まず恥らうだろう。」
そうですね。所謂壁ドンですもの。
少女漫画でよく見ます。
「さらに言えば、人の一世一代の告白を聞いていないところとか。」
だって、まさかそっちの好きとは思いませんでしたから。
『えーと…貶してるんですか?褒めてるんですか?』
素直に分からなかったので聞いてみる。
あ、また笑ってるよこのお方。
「褒めてるつもりだよ。俺に対して媚を売る女なんていくらでも居た。こうやって追い込めば皆顔を赤くするし、俺の話は一語一句聞き漏らさない。」
『いい事じゃないですか。』
「逆に嫌になる。俺は普通じゃないのか?」
そう彼は私に問う。正直私は彼が普通じゃないと思っている。
いろいろな意味で。
『普通じゃないですよ。眉目秀麗、文武両道、さらにお金持ちって。』
「結構言うね。」
『人としても、少しクセがあると思ってます。』
私が答えると、彼は少し淋しそうな顔をした。
「俺は、せめて普通の恋を知りたいよ。」
『恋、ですか。』
「完璧だなんていわれても、こればっかりは知らない事だらけだ。」
少し伏目がちに言い、彼は私の肩に頭を置いた。
泣きそうな顔で言い切った彼は、一体今までどんな我慢をしてきたのだろうか。
『……恋に普通なんてものはあるんですか?』
「……?」
彼を傷つけないように、壊さないように。
私は慎重に言葉を紡いだ。
『色々な形があると思うんです。私は、赤司君に一目惚れしました。でも私の友達は、小学校からの幼馴染が好きだと言っていました。
他の…例えば隣の席の男の子は、見た目が好みの子が好きになったと言っていました。』
私の言葉が、彼を救えるように。
『私は、赤司君に一目惚れしたと言いましたが、その気持ちは異性に対する気持ちなのかも分かりません。でも、
赤司君との“顔見知り”の関係からは変わりたいと思っています。』
私にとって、これが普通の恋です。
「……君は本当に、なんというか、色々上手だな。」
『え?』
「俺は、名字が道で転んだ子どもに話しかけている姿や、信号のない横断歩道を渡ろうとしていたお婆さんを助けている姿を見て好きだと思った。」
『……見てたんですか。』
「優しいんだなって思ったんだよ。大抵は見て見ぬフリをするかそれを見て笑う。廃れきった中で名字は優しい。それを知って好きになったんだ。」
『嬉しいんだか恥ずかしいんだか分からなくなってきたんですけど……。』
結果的に、俺は君が好きなんだよ。
そう彼は言って、笑った。
普通の、あどけない少年の笑み。
そろそろ、クラスメイトと言う関係からランクアップしよう。
そして少年は、恋を知った。