夢√

□かみゅのけ
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「………」





…暑い。


エアコンをつけていても暑い。

節電などというせいでエアコンは28℃設定。

大体、28℃も暑すぎる。


日本の夏は何故こうも暑いのだろうか。
シルクパレスの寒さが恋しい。

あの凍えるような寒さ。



あぁ…故郷シルクパレス…

愛しの故郷…シルクパレス……





「…カミュ。なんか顔がキモいです。」




マスターコース中であるからして、同室である愛島セシルはソファで目を瞑って望郷していた俺に突然そう言ってきた。


「何を言う愚民が。」

「大体、その恰好、見ていて暑苦しいです。やめてください。」

「たわけが!このシルクパレス製のスーツが暑苦しいわけがなかろう!」


シルクで作られたこの白く美しいジャケット。
シルクパレスの寒さを少し思い出させるような冷たさもある。

そこらで作られたスーツとは違うのだ。

…まぁ、愛島にはわからんのだろうがな。


「…とにかく、俺はもう寝る。この暑さには耐えられん。」

「…暑い?何故暑いのですか?むしろ涼しいぐらいですよ。エアコンとか要りません!」

「なっ…ばかか貴様は!エアコンがあっても暑すぎる!この野蛮人めが!」

「やっ…野蛮人とは何ですかっ!アグナパレスは野蛮じゃありません!!」


愛島の故郷のアグナパレスは砂漠の国。
だから逆にこいつは暑さには慣れているのだろう。
多分、冬には寒さに耐えられなくて泣いているであろうが。

そんなものは知ったことではない。

とりあえず俺は愛島からエアコンのリモコンを奪い取ってはベッドへと潜り込んだ。
愛島より先には寝たくなかったが、俺は暑さでめっきり弱っていて、直ぐにでも眠りたかった。



「もう俺は寝るから話しかけるな。」

「だから!暑いなら何故布団をかけるのですか!」

「うっ…うるさいっ!癖なのだ!!」



シルクパレスは寒かった。
流石に就寝時は布団を掛けなければ寝られなかったからか、俺は必ず寝るときは布団を被らなければ寝られない癖がついた。

それがどんなに暑くても。


俺は愛島の言葉も無視し、目を瞑った。















「………くっ…暑い…」


夜中の何時なのだろうか…。

俺は汗だくで目が覚めた。

部屋は真っ暗で、部屋の端のベッドで愛島は既に寝ていた。


額にも首筋にも汗が流れては纏い、気持ち悪かった。


「…もう起きるか…」

何時なのかもわからないままだったが、俺はゆっくりと身体を起こしては布団を剥いだ。

そして首にまとわりついた長い髪を持ち上げようと、首後ろに自分の手を持っていった時に気付いた。







「………髪が…無い……だと…!?」








俺は急いで髪の毛を自分の頭から探した。
しかし、手で触ってみるが頭皮のつるつるした素肌の感触しか伝わらず、いつものあの美しい金髪は一本も見当たらなかった。


…ど、どういうことだ…

寝る前は確かに頭にあったはずなのに…


俺はベッドや枕の上を探してみるが髪という髪は一本も見つからなかった。

軽い頭を振りかざし、ベッドの上から下まで見るが何も無い。



俺の頭も何も無い。




「…どういうことだ…」


俺は久しぶりにパニックに陥った。

明日からの仕事はどうしようかとか、今からかつらを用意できるだろうかとか、そんなことばかりに思考を巡らしていたその時だった。



「…カミュ…何ですか…夜中にうるさいですよ………」



俺とは反対の部屋の端のベッドで寝ていた愛島が眠たそうに目を擦りながら起きてきた。


っ…これはまずい…

こやつにこんな頭を見られたらどんなにからかわれるかっ…


俺は急激に焦り、頭を隠そうと急いで側にあったタオルを頭にかけた。

しかし俺の目にはその瞬間、とんでもないものが映った。




「あっ…ああああ…愛島っ…な、何だその…!?」

「え…何ですか?」

「かっ…鏡を見てみろ…」



俺は手鏡を愛島に投げ渡すと、愛島は自分の姿を見て驚愕した。



「なっ……なんでワタシの頭にカミュの髪の毛がっ……!?!?」



愛島の襟足部分から何故か俺の髪の毛が綺麗に生え揃っていた。

愛島は自分の姿に驚き、そして恐る恐る俺の方を見た。

頭を隠しきれていなかった俺は、まずいと反射的に思い隠そうとしたが、既にそれは遅かった。


「かっ…カミュっ…そ、その頭っ…ぎゃはははははははははは!!!ハゲ!禿げてますぅぅ!!ぎゃははははははははは!!」

「うっ…うるさい!!貴様!俺の髪を返せ!!」


俺は直ぐ様愛島の襟足から生えている美しい自分の髪の毛を引っ張った。



「なっ!?いっ…痛いっ!!痛いですっ!止めてくださいカミュっ!!!!」

「俺の髪の毛が美しくて羨ましかったからって魔法で俺の髪の毛を取るな!この泥棒猫め!!」

「いっ…痛いです!ていうか誤解です魔法なんて使っていません!!第一カミュの毛なんて死んでもいりません!!!暑苦しい!!!」

「貴様!今何て言った!もう一回言ってみろ!!!!!」

「やっ…止めてください!髪の毛引っ張らないでくださいー!!今は私の髪です!」

「わ…私のカミュ…だと…!?いつ俺が貴様のものになった!」

「髪とカミュを聞き間違えないでください!カミュなんて要りません!!」















「…という夢を見たんだが。どう思う。黒崎。」



「知らねぇぇぇえええええ!!」




後日、俺はあの気持ち悪くも恐ろしい夢を黒崎たちに話してみた。



「それ、あれだよ、暑すぎて夢見が悪かったんだよ。」

「まぁ…それしか考えられねぇよな。……ぷっ…カミュの丸坊主か…っ…」

「貴様、笑うでない。」



まぁ、美風の言う通りなのであろう。

さすがに布団をかけるのはよくなかったかもしれん。



「…しかし…髪の毛が全て抜けると言うのは恐ろしいもんだな…ふむ…用心しておこう…。」


「髪の毛が全部抜けるなんてあんまねぇけどな。」



そう、黒崎が言った時、俺たちがいた談話室の扉が開いて、いつも通りのうるさい寿が入ってきた。





「じゃ〜ん!見て見て!ミューちゃんのかつらだよ〜!これで誰でもミューちゃんになりきれるよっ☆」



寿は頭に俺の髪型に酷似したかつらを被って、部屋に入ってきては舌をペロッと出してポーズを決めた。





「…カミュ。髪の毛無くなっても、あれ、使えば良いんじゃない?」


「良かったじゃねぇか、代わりがあって。」


「…あれはキューティクルが足りん。やはり…」






自分の髪の毛が一番だ。










─END─

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