短編BL

□ストロベリーキャンディー
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「…あーあ…」

「ん?どしたの、おとやん」


ガックリと肩を落としてぼくの家に来たおとやんは、ため息をつきながらリビングのソファーに腰をかけた。

仕事終わりにぼくの家に寄りなよとメールをして、夜、ぼくの家に来たところまでは良いんだけどさ。

普段あまりため息とかつかない彼がこうやって端からもわかるようにため息をつくと、恋人だからとか以上に、普通に心配してしまう。

ぼくはおとやんの様子を伺いながら、彼の横に座った。


「あのねー…翔がね…」

「あぁうん、翔たんがどうしたの?」

「俺がずっと食べずにとっておいた飴を食べちゃったの…」

「…はい?」


飴?

翔たんに飴を食べられただけでこんなに項垂れるのかこの子は。


「だっ…だって!ほんとに好きな飴だったんだよ!もう売ってないし…」


本気でショックを受けてるおとやん。
しゅんとしている彼は可愛いのかアホなのかちょっと境界線がわからなくなってきたよ、ぼく。


「えっと…どんな飴?」

「あれだよ、俺がよく嶺ちゃんにあげてたやつ。あの苺のさ」

「あぁ、あれね!…確かぼくまだ持ってたよ、あの飴。」

「え!?嘘!!ほんと!?」


…ほんとにこの子は面白い。
そんな一言でぱぁっと表情が明るくなる。

犬みたい、なんて言ったら怒るのかな。


「おとやんに貰ったまま確かキッチンに置きっぱなしだったと…」

ぼくはおとやんの明るくなった顔を台無しにしたくなくて、急いでキッチンへと向かった。


「あぁほら、これでしょ?」

キッチンの台の端の方に置いていた飴を見つけ、ぼくはそれをおとやんに見せた。

するとおとやんは先ほど以上に顔を輝かせてぼくを見た。


「わあっ!嶺ちゃんありがとう!大好き!」


…飴を見つけただけでこんなに言ってもらえるなんてねー…

なんだろ、ぼく幸せなのかな。


…いや、幸せなんだと思うけどさ。


おとやんの笑顔と言葉に不意打ちをくらって何も言えずにいると、おとやんは何かを考えるようにした。


「でも…それ嶺ちゃんにあげたやつだし…良いよ!嶺ちゃん食べて!」

「え?」


あんなにショック受けていて、見つけたときはあんなに喜んでいたのに。

おとやんは最終的にそんなことを言い出した。

「いや、いいよ。おとやんが食べたいなら…」

「嶺ちゃん…食べたくないの?」


…本当にこの子は…
そんな風に聞かれて貰ったもの食べたくないなんて言えないでしょ普通…

食べたくないわけじゃないけれど、どうしても食べたいものな訳でもないし。

素直って怖いね。



「…わかった。じゃあこうしようか。」


ぼくは諦めて飴の入った小袋を開け、中のピンク色をした飴玉を口に入れた。

甘い苺の味が口いっぱいに広がって、なんでおとやんこれが好きなんだと疑問さえ浮かんだけれど、それを隠してソファーに座っているおとやんの横に座った。


「…これ、キスして取ってみて?」

「っ…え、えぇっ…!?」


おとやんの素直さに惑わされ続けたから、今度は仕返し。

驚いて、そして真っ赤になるおとやんの顔に、ぼくはクスリと笑みを溢した。


「出来ないなら…食べちゃうよ?」

「やっ…やるっ…!」


飴が食べたいからなのか、それともキスしたいと思ってくれたのか

どっちかはわからなかったけれど、顔を真っ赤にしている辺りから察して後者だと期待しよう。


「…っ…ん…」

そっと重なってきたおとやんの柔い唇。

でも、ぼくは意地悪したくてぎゅっと唇を結んだ。

そんな簡単に渡すもんか、って悪戯心なのか意地なのかわからない感情に自分でも大人気ないなって心の中で嘲笑した。


おとやんはそんなぼくに気付いて、頑張ってぼくの唇を開こうと探ってくるが、恥ずかしいのかその唇の動きはぎこちなくて。
少しだけ唇を離しては困惑と羞恥で涙を目尻に浮かべた真っ赤な顔でぼくを見てきた。


「…っ…嶺ちゃん…ずるいよっ…」

「…だって…おとやん可愛いからさ」

「っ、嶺ちゃ…」


そっとおとやんの顎に手を沿えると、ぼくはおとやんの言葉を封じるように唇を塞いだ。

おとやんの下唇に舌を這わせると、ぎゅうっと彼はぼくの背中に両手を回した。
時折漏れるおとやんの温かい吐息がぼくの頬を掠めては、それがまたぼくを興奮させた。


「んっ…ぅ…れ、ぃ…ちゃ…」

「…おとやん…もっと口、開けて…」

「ぇ…ぁ…ん、ぁっ……」


舌を入れ、そこにおとやんの欲しがっていた飴を忍ばせた。

おとやんの舌がぼくと同じ甘い苺の味に侵蝕されているのを感じて、飴を通してただ彼を感じた。



「ん、ぅ…はぁっ…ぁ…」

さすがに苦しいかなと思い唇を離すと、彼の唇の端からは飴の着色料の色が混じったピンク色の唾液がつぅっと流れていた。


「…飴は、美味しかった?」


その唾液をそっと舌で舐めとると、ふるっと身体を震わせながら、こくんと恥ずかしそうにおとやんは頷いた。


「…もう…あの飴食べれないよ…」

「どして?」

「…嶺ちゃんとの…キス…思い出しそうで…」

「ははっ!最後に良い思い出になったでしょ?」

「…っ、嶺ちゃんのばかっ…!」



素直に感情を出す君が可愛いよ、おとやん。

恥ずかしがってぼくの首もとに顔を埋めるおとやんの頭を、ぼくは宥めるようにそっと撫でてあげた。




─END─



「あれ、おとやん、この飴まだここのスーパーには売ってるよ」

「もっ…もう買わないよ!」

「なんで〜?おとやん可愛かったのになぁ」

「嶺ちゃん意地悪!」



─END─

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