短編BL
□ファーストキスはとっておいて
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─翔side─
「…練習、してみますか?」
「…へっ…?」
一瞬、何を言われたのか解らなかった。
掴まれた手首に、きゅっと力を入れられて我に返り。
急に自分の脈拍が早くなったのがバレそうで。
「なっ…何言ってっ…」
「下手だと思われるのが嫌なのでしょう?」
余裕綽々の表情のトキヤはそう尋ねてくる。
いやっ…さっき…確かにそう言ったけどっ…
お…男、と…なんてっ…
「…ほら…翔…」
俺はソファに座っているトキヤの両膝の間に、ぐいっと掴まれた手首を身体ごと引き寄せられた。
「っ…!ト…キヤっ…待てって…」
「…嫌、ですか?」
「い…嫌ってかっ…男、同士なの…にっ…」
「…そんなの…関係ありません」
指先で俺の唇をなぞるトキヤの指先に思わず背筋が震え、身体がどんどん熱くなるのがわかった。
「…っ…」
「…教えてあげますよ…知りたいのでしょう…?」
「えっ…」
「…私が、経験したことがあるか…それから…」
唇をなぞっていた指先が、そっと顎へと移動し、うなじへと滑り出す。
「っ…」
「…キスの…味…」
「ばっ…かっ…」
「ほら…目、つむって…」
このまま目をつむったらきっとキスされてしまう。
でも…不思議と嫌じゃなくて。
むしろこのまま触れてほしい…なんて考えている自分がいて。
相手は男で…同じクラスメートのトキヤで…
「…ほら…」
低く囁かれたトキヤの声に、俺の中の迷いは一瞬で晴れた。
そうしてゆっくりと瞼を閉じ、俺の視界は真っ暗になった。
ただトキヤの指先と、呼吸を感じる。
妙なぐらい大きい俺の心臓の音。
トキヤに触れられている部分が熱くて。
「っ…トキ…ヤっ…」
熱に浮かされて、俺はそう名を呼んでいた。
唇を掠めたトキヤの吐息。
「っ………!」
─チュッ…
……?
「っ…え…?」
そっと目を開けると、さっきまでのトキヤの表情とは違く、悪戯な笑みを浮かべていた。
「え…あ…今……え…?」
「…まさか…本気で唇にするとでも思っていたのですか?」
「…っ…!?」
みっ…いっ…今っ…
「っ…み…耳っ…!!」
「そんなに慌てないでくださいよ。」
バタバタと慌て騒ぐ俺に、トキヤは冷静にそう言う。
「ばっ…み…みみみみみ…耳っ…耳にっ…!!!」
「唇は…いつかのために取っておきなさい。」
「なっ…はっ…ちょっ…」
どうしたら良いのか解らない俺を他所に、トキヤはさっさと俺を置いて談話室から出ていってしまった。
「なっ…んだよっ…くっそ恥ずかし…いっ…」
今更ながらに突然羞恥心から全身を纏い、俺はソファにずるずると座り込んだ。