短編裏BL

□敵わない。嫉妬
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“すっごかったねぇ、あの子たち。これからどうなるんだろうね。”


“あの子たちなら、うたプリアワードも夢じゃないかも、ね”



そう、少しだけ寂しそうに笑いながら言う嶺二は、少しだけはだけた浴衣の隙間から見せる胸元を俺の前でちらつかせながら寝る準備をしていた。

嶺二と二人きりで同じコテージだと社長から聞かされたときは別に何とも思わなかったが、今になるとこれはつまりそういう状況下なのだと実感した。

露天風呂に一緒に入るところまでは良かったが、そこでセシルたちST☆RISHに邪魔をされ、さっきから嶺二の口からはその話ばかりが発せられる。

ただでさえあいつらにあんな歌を聴かせられて苛ついているのに。
恋人のこいつの口から“あの子たち”やら俺たちが叶えられなかった“うたプリアワード”という単語を出されて余計に苛ついた。


「…知らねぇよ。」

「ランランだって、あの子たちの歌を聴いて何も思わなかったわけじゃないでしょ?」

「……知らねぇよ。」


思わないわけがなかった。
なかったけれど、その話を嶺二とどうこう話したいという気分でも無かった。
寧ろ頭の中からデリートして、聴かなかったことにしたいぐらいだった。

そんな俺に気付いたのか、嶺二は急に話を旋回させた。


「アイアイたちは寝たのかな」

「…さぁな。」


藍はカミュと同じコテージだったはずだ。
隣のコテージにいるはずだが、隣と言ったって少しだけ歩く距離にある。
物音どころか何かあっても直ぐには気付かない距離だ。


「ランラン、明日はさ、皆で川釣りしようよ」


自分のベッドの端に腰をかけていた俺の横に、嶺二はベッドに乗り上げて座りながら俺を見た。

「…藍たちがやると思うか?」

「最初は乗り気じゃないと思うよ〜でも絶対楽しいって。皆競いあったりしてさ…なんならおとやんたちも…」


“おとやんたち”

そのワードを嶺二の口から聞いた瞬間、俺は嶺二の口を手で押さえるように掴んだ。


「にゃ…にゃに…ランラン…」


ただ驚いているのは嶺二だけではなく、そんな行動をとった自分にもだった。

別にこいつが音也やトキヤたち後輩を好きで、大事にしているのは前からのことなはずでわかっているつもりだったのに。
自分にはあの歌を歌えるようなスキルが無くて、ただあの歌に嫉妬して、その上嶺二の思考をかっさらったあいつらの歌に嫉妬して、そんなのどうしようもなく醜いくせに止められない黒いドロドロしたものが自分の中で溢れては止められなかった。


「…あいつらの話…すんじゃねぇよ…」

「…へ?えっと…ランラ、ン…」


黒いドロドロしたものを口から吐き出しながら、俺は嶺二から手を離してキスをした。
最初は戸惑っている風だったけれど、徐々に受け入れ始めてきた頃にそっと舌を忍ばせると、嶺二はピクッと肩を震わせて俺の肩口の浴衣にしがみついた。


「っ、ん…ぅ…ランラン…?」

「……黙ってろ…」


黒いドロドロした塊のような感情を胸に抱えながら嶺二にキスしたってキスに集中出来るわけがなかった。
それでも、ただこいつの意識を俺だけに向ければ少しだけ気が晴れそうな気がした。

「…ふ、ぁ…ランラン…」

甘ったるい声で俺の名を呼ぶ嶺二の半開きの口に俺は触発されたように自分の舌をそこに思いきり捩じ込んだ。
びくんと跳ねた嶺二の身体を抱き締めるようにして抱き抱え、そのまま俺の上に誘うようにして背中からベッドに倒れ込んだ。
腰に当たる嶺二の昂ったそれが嶺二の興奮を顕著に現していて、俺は嶺二の髪をすくようにして指に絡めた。

こいつには、何も考えさせたくない。
ただ、俺だけを見て、俺だけを感じていれば良い。




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