短編裏BL

□可愛いキミが
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─翔side─







部屋のタンスの掃除をしていたある日。
タンスの奥から捨てたと思っていた小傍唯の衣装を一式見付けてしまった。
可愛らしいフリルのついた、コルセット付きのメイド服のようなピンクの膝丈ワンピースに、白のニーハイにガーターベルト。
髪飾りとかつら、女の子用の下着さえまでもご丁寧にしっかり保存してあった。

俺はそれを手に取り、懐かしいとかって懐古する前に、あいつに見つかったらやばいということが真っ先に俺の頭に浮かんだ。
唯はあいつと出会う前にしていた仕事だ。

だから、あいつは知らない。
知らないはず、なんだ。


なのに、


「…それ、小傍唯の衣装だよね。」


いつの間にか俺の部屋にきては後ろから俺の手の内を見てそう呟く藍の姿があった。

「うっ…うわああ!なっ…なんでお前っ…」

「呼び鈴鳴らしても出なかったから。それよりなんで持ってんの、それ。」




不可思議なものを見るような目で、俺の手の内にある小傍唯の衣装を見つめては俺に問いただそうとする藍。


…何と説明しようか…

『俺…実は小傍唯やってたんだ』とか?

いや、そんなの良くないだろ、多分。
女と間違われたなんて恋人に告白するほど俺そんなに小傍唯にプライド持ってたわけじゃねぇし…

いや、仕事上きちんとやることはやってたけど。

何でそんなあまり嬉しくも喜ばしくもない過去を自らの口で言わなきゃなんねぇんだっつの。



「ねぇ、ショウ、聞いてるの?」

「へっ!?あ、あぁ、聞いてるよ!な、何でだろうなぁ!俺もよくわかんね!」


これで誤魔化せたら何と楽なんだろう。
でも相手はあの藍だ。
誤魔化せるわけがない。

こういうときまともな言い訳さえも思い付けない自分の頭の悪さが嫌だ。
トキヤとかレンなら簡単に偽って言い訳出来るんだろうけど。



「はぁ?ボクが聞いてるのは、何で辞めたはずの小傍唯の衣装をまだ持ってるのって意味。何、ほんとに女装趣味でもあるわけ?それともまだ小傍唯を続けてるわけ?」

「いや…それはねぇけど……ん…?」


何か藍の今の言葉に引っかかり、俺はもう一度藍の言葉を頭の中で再生させた。


今こいつ何つった…?


小傍唯を続けてる…?


え…何こいつ…何で…何で…



「何で俺が小傍唯をやっていたことを知ってるのかって顔してる。」

藍は俺の思考を読むようにしれっとそんなことを言う。

「だ…だって小傍唯なんてほぼ無名にも近い…そ、それに俺だなんて確信は…」


苦し紛れの言い訳というか逃げを俺は選択する。
それと一緒にその衣装を持ちながら後退りをする。

しかし、そんなの藍がさせてくれるはずがない。
逃げようとする俺の行く手を藍は全て阻んでは呆れたように俺を見下す。


「その衣装、雑誌のグラビア特集とかに使っていたやつ。それに、そんなに無名でもないし。何よりボクを誰だと思ってるの。」

「…スパコンの美風藍様っす…」

「正解。」



…スパコンとか言われちゃ何も言えねぇ。
情報に関しちゃこいつは人類(?)でナンバー1だ。



「あとは、ショウの顔と小傍唯の顔、知ってる人から見たらまんまだし。それに、ボクがショウの顔見間違えたりなんか絶対しないし。」


俺から小傍唯の衣装を取ってはまじまじと見つめながらそんなことを藍は言いだす。

…正直、その言葉に嬉しいとか思ってしまった自分が恥ずかしい。
ていうか、さっきまで隠そうとしていた自分がばかみたいで俺は藍から顔を背けた。


「まぁ、ショウに隠し事は向いてないよ。センスの欠片もない。」

「うっ…うっせ…わかってるよんなもん…」

「それが良いところなのかもしれないけど。」


藍はそこまで言うと、何かふと思い付いたような表情をして俺を見た。
その藍の様子に俺は首を傾げ素直に問いた。


「…どした、藍…」


「ショウの女装、今見たいんだけど。」


「………………は?」


大したことじゃないと思って素直に疑問をぶつけた俺が悪かった。

何を言い出すんだこのスパコンは。
頭壊れてんじゃねぇのか。

そうぶちかまそうと思ったけれど、スパコンとは思えないような興味の光を宿した瞳が俺を期待の眼差しで見つめてくる藍に何も言えなくなった。


「ショウの女装、生で見たいんだけどな。」

「えっ…いや…その…」

「……恋人の願い聞いてくれないの?」

「…な゛っ…」



…普段なら『これは強制だから』なんつって無理矢理着せられそうなのに。

何で今日に限って『願い聞いてくれないの?』なんて言ってはそんなねだるような瞳をして言うんだよこいつは…

こういう時だけ15歳年相応なんて、狡いにもほどがある。

可愛く見えてしまう分、聞いてあげたくなんだろ…


「…し…仕方ないな…こっ…今回だけだかんな!」


俺は藍の手から衣装を受け取ると、着替えるために洗面所へと移動しようとする。


「……ショウって…ほんと単純だよね。」

「はっ!?今何つっ…」

「何も言ってないよ。だから早く着替えて。」



ぼそりと呟かれた藍の言葉を聞き逃したわけじゃなかったけれど、藍がぐいぐいと俺の背中を押しては洗面所に押し込んで扉を閉めたので結局俺は何も言えず、小傍唯の衣装を着るしか術はなくなった。
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