短編裏BL

□愛したい人
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今日の仕事は来期放送されるドラマの収録だった。
ヒロインの愛人って役柄なんだけど、似合わないようで意外に似合ってしまう自分が何だか怖いような気もした。

そんな役柄をやった後に恋人に会いに行くのも何だか気分的には優れないけれど、それでも仕事の疲れを癒してくれるのは、そう、ぼくの恋人であるトッキーしかいない。

そんなことを考えながら事務所の寮にある駐車場に車を停めて、ぼくはトッキーのいる部屋に向かった。

トッキーも早く事務所の寮から移れば良いのに。
マスターコースだって終わったんだし、しかもトッキーぐらいならアパートやマンションぐらいいくらでも借りられそうなのになー。

ぼくの部屋の隣、とかさ。

何ならもういっそぼくの家に居候ならぬ同棲でも良いんだけど。
家に帰って可愛い恋人がおかえりなさい、なんて、なんて幸せなんだろう。

…あ、でもトッキーだと仏頂面で言いそうだな…いや、もしかするとトッキーの方が売れちゃってトッキーはなかなか家にいないみたいな状況も出来てしまうかもしれない。

…うーん。それはおにーさん複雑だ。


そんな妄想やらを悶々と考えながら、トッキーのいるであろう部屋を合鍵で開いた。


「トッキー、入るよ〜」


ドアを開け、いつものように玄関で靴を脱いではリビングに入る。
塵や埃一つない綺麗に片付いた部屋。
見所なんてまるでなく、いつもと代わり映えもないけれど、これはこれで逆に感心してしまう。

…ぼくの部屋なんかぐっちゃぐちゃだ。

とりあえずいつもと変わらない部屋を見渡すが、ソファの前にあるテレビがついているだけでトッキーの姿が見当たらなかった。

「…あっれ。トッキー、どこかな…2階とか?」

でもあの几帳面なトッキーがテレビをつけっぱなしにして2階になんか行くわけがない。

そこでソファの影で何かが動いたのが見えて、ぼくはソファの影を覗き込んだ。


「…トッキー、寝てるの?」


ソファの上で横になっては、目を覚ます気配も無さそうなトッキー。
トッキーがソファで横になるなんて珍しい…。
相当眠かったんだろうな…

テーブルの上にはしっかりとバランスが取れていそうな料理がラップがかけられたまま2人分用意されていた。


「ったく…トッキーは…」

用意周到なトッキーに思わず笑みが浮かび、ぼくはトッキーが寝ているソファの横の地べたに座ってトッキーを眺めた。
いつもあんなに仏頂面なのに、寝顔はこんなに可愛い。
きっとこれはぼくだけしか見ることができない特権かな。

無性に愛しさを感じて、ぼくはそっと跳ねたトッキーの髪を撫でた。


「…………んっ…こ…とぶき…さん…?」

髪を撫でていると、そっと瞼を開けながらトッキーは目を覚ました。


「…ん、起きた?おはよ。」

「…すいません…寝てしまって…わざわざ寄っていただいたのに…」

「いーのいーの。トッキーだって疲れてるでしょ。」

ソファで寝ていたからか、トッキーは節々を少し痛めたようで、身動ぎをした。


「……何故…頭を撫でているのですか…」

身動ぎをした後、ぼくが髪を撫でていることに気付いたトッキーは怪訝そうに横を向いてはぼくを見た。


「何でって…可愛い、から…?」

「かっ…可愛いくなんかないですよっ…からかわないでくださいっ…!」

「別にからかってなんかないよ〜本音だよ、本音。」

「その笑いがからかってるじゃないですか…」

ぼくは肩をクックと震わすと、トッキーは諦めたようにぼくに頭を撫でられる。



「トッキーさ…ぼくのこと…好き?」

「…何ですか…いきなり…」

「んーん。ぼくはトッキーが大好きだなって思って。」


温かい雰囲気に酔ってしまったのか、ぼくはそう告げた。
その言葉で、さっきまで眠たそうにしていたトッキーの目がよって揺らいだ。


「っ…な、んなんですかっ…恥ずかしい人ですねっ…」


トッキーは少し顔を赤らめて、ふいっと顔をぼくから背けてしまった。

「恥ずかしいの?ぼくちんはただ本音伝えてるだけなんだけどな〜」


あーあ。
なんかもう、ほんと可愛いなぁ。
付き合い始めた時だったら、絶対こんな風に頭撫でさせてくれないし。
弟みたいだけど、違うよなぁ。

何て言うか、この恋人だからこその特権みたいな。

愛しくて仕方ない。


「ねぇねぇ。言ってくれないの?好きって。あ、なんなら愛してるとかでも良いよ?」

「馬鹿なんですか貴方は!」

「トッキー照れちゃって〜かーわいっ!」

「っー…」


照れてなかなかこちらを見てくれないトッキー。

そんな仕草も可愛いんだけど、いい加減寂しいな。

でもさすがに言い過ぎると機嫌損ねちゃうかもしれないし、ここは少し大人しくしてようかな…なんて思っていると、トッキーはソファの上でごろんと態勢をこちらに向けてはぼくが頭を撫でていた左手をそっと右手で掴んできた。


「……好き…です…寿さん……」


顔を真っ赤にして、ぼくの手を少し冷えた手で握ってはそうトッキーは呟いた。


「……もう一回言ってほしいな〜」

「なっ…もう言いません!!」


改めて言うなんて恥ずかしいなんてぶつぶつ言っているけれど。

…あぁもう…ほんと可愛い。
おにーさん、誰かにこんなに心や理性を翻弄されたことないよ。
余裕あるフリとかしてもう一回言ってほしいな〜なんて言ってるけど、ごめんね、本当は余裕なんて無いんだ。
ひた隠しするのが精一杯。
君の前では余裕のある大人でいたい。
だって君は、もうぼくなんかより大人に見えてしまうことが多いから。
それだけでも余裕ないのにな。


「……寿さん…?」


何も言わなくなったぼくを不思議そうに首を傾げてはぼくを見つめるトッキー。

だから、可愛いんだってば。


「…好きだよ…トッキー……」


気付けば本気でそう告げて、トッキーの柔らかい唇に自分の唇を重ねていた。
ぴくっと驚いたようにトッキーの身体は反応したけれど、そのままそっとぼくの背中に両手を回してきた。
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