短編裏BL

□堪えられないご挨拶
1ページ/1ページ








「…ちょっとここ入って。」


「は?ここ勝手に入っちゃ…うわっ…!」




藍はスタジオの中の使われていない物置部屋みたいなところまで連れてくると俺をその中に問答無用で入れた。


真っ暗な室内に入れられた俺はそのまま壁に藍の手によって押し付けられた。




「……いつも言ってるよね。無防備すぎだって。」


「…だ、だってあれは……」


「この唇は…ああやって簡単に他人を許すんだ…?」



藍はそっと指先で俺の湿っている唇に触れた。

その湿った感触に藍は額にシワを寄せ、そのまま無言で俺の唇を奪った。


腰から力が抜けるほどの長く荒いキスに、俺はキスの最中に地べたに座り込んだ。




「んっ…は……あ、ぃっ……」


「……こんなんで…腰砕けになるのか…」



地べたに座り込んだ俺と視線を合わせるように、藍はしゃがみこんだ。

そしてそのまま藍は床に手をついて壁にもたれ掛かっている俺に迫ってきた。



「なっ…藍っ…待っ……」


「待たない。あんなの見せつけられて待てるわけないでしょ。」


「だっ、て…声…聞こえちゃっ…んぅっ…!」


「…じゃあ…黙って。」




暗い部屋で、藍の瞳が煌めいた。
そして次の瞬間、口内に藍の指が入ってきた。

二本の指が俺の口内をまさぐる。

舌を撫で、かと思えば歯茎の裏をいやらしくなぞる。



「ん、む…っ、ぅ…んは、っ…ん…」

「…唾液、流しすぎ。」



開けっ放しの口の端から透明な唾液が細く流れれば、藍はそれを首筋で受け止める。

埃っぽい暗い部屋で、俺の荒い吐息と水音だけが響く。




藍の表情が見えない。


行動も分からない。



だからこそ、藍を余計に感じてしまう。





「……顔…エロい…」




ロボットだから、藍は見えるんだ、俺が。

なのに、俺は見えない。

吐息や、指、その雰囲気で感じるしか出来ない。



「っんぅぅ…あい、ぃ…っ……」

「…そんな物ねだるような目をされてもね。もう、時間。」



すっと抜かれたびちゃびちゃに濡れた指先を、頬に撫で付けられる。


「…続きは、しないよ。お仕置きだから。」



藍はそう言うとそっと唇を軽く重ねては立ち上がった。



「…収録。間に合わなくなるよ。」

「っ…藍の…ばかっ……」

「…いくらでも言いなよ。あんな挑発受けられたら、止まんない、普通。」



藍はそう呟くように言うと、俺の手を引いて俺を立ち上げた。





「…もう、あいつには近付かないで。」


「……え…?」



聞き返すと、藍はぎゅっと俺の手を握り締めた。





「……堪えられない。」






表情が見えない。



でも部屋から出たときは、いつも通りの冷静さを保っている藍だった。




「…どういう…」


「……これ以上…聞く気?ていうか、分からないの?本当に馬鹿だね。」




…本当にいつも通りだ。

変わらずの毒舌。



…でも…藍は、こっちが良い。


感傷に浸る藍は、藍っぽくない気がする。




「…何ニヤニヤしてるの。」


「へっ…いや…なんでも…」


「なんでもないって顔じゃないよね。収録終わったら覚えておいて。」


「なっ…!?」





帝ナギにキスされたことさえももう忘れかけていた。





それぐらい、俺は藍に惚れている。



…のかな、なんて、ついついにやけてしまう。





そんな、収録前。





─END─

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ