短編裏BL
□狡猾な人
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「嶺二先輩!それでここは…」
「あぁ…うんうん。そう、それで…」
只今しょーたんと明日の打ち合わせ中。
しょーたんがどうしても明日の収録が不安だから確認したいと言ってきたので、どうせ特に用もなかったので談話室で打ち合わせをすることにした。
「…それでここは…」
一生懸命、台本とペンを手に確認しているしょーたん。
…可愛いなぁ。
ぼくを兄のように慕ってくれて。
…でもおとやんとは違う可愛さだなー。
何て言うんだろう。
頑張ってる姿がなんか小さくて可愛い。
小さくて可愛いなんて言ったら、しょーたんは怒るんだろうけど。
好きだなぁ、なんて不意に実感して、頬が緩む。
あぁ、いけないいけない。
しょーたんは一生懸命やってる。
それを無下にしちゃいかんよおにーさん。
「…あ、あの…すいません嶺二先輩…」
「へっ?あぁメンゴメンゴ!もう一回言ってくれる?」
やばいやばい。
ぼくが聞いてなくてどーすんの。
打ち合わせを引き受けた以上真面目にやらなきゃ。
…って、普段なら思うはずなんだけど。
どうもしょーたんの前だと上手くいかない。
目の前でテーブルを挟んでソファに座っているしょーたんの髪が目の前で揺れる。
誘われてる気分にしかならない。
しょーたん、風呂上がりかな。
シャンプーの匂いがする。
普段しているピンはしていなくて、いつもと違うしょーたんにちょっとドキッとする。
「…嶺二先輩…ここは…」
「…あぁ…そこはさ…」
無意識だった。
しょーたんに聞かれて、ぼくはぐいっと顔を近づけ、しょーたんのペンを持っていた手を掴んで、台本に文字を書き込んでいた。
「…っ……!?」
しょーたんが動揺したのが伝わった。
さっきまでの真剣な表情から一変して、仄かに頬が赤く染まった。
「……どうしたの?しょーたん。」
しょーたんの反応でしょーたんがどう思ったなんてすぐ解る。
それでも自分を棚上げするように、そんな問いをする。
「っ…い、いえ…そのっ……」
「あっれ…顔…赤いよ…?」
「ちっ…違うんですっ!そ、そのっ…何でもない、で…」
「……何でもなかったら…そんな顔赤くしないよね…?」
「っ……!!」
ごめんね。
自分を棚上げするようで。
でも、しょーたんほんとに可愛いんだ。
握っていた手にギュッと少し力を込めた。
しょーたんはその手を見ないようにしながらも、完全に意識はそっちにいっていた。
「……あ、あの…手っ…」
「……手が…何…?」
手よりも、近付けた顔を意識してほしかった。
ぼくの目を見てほしかった。
「……しょーたん…」
「は…はい……」
そう囁くと、しょーたんはそっと上目遣いでぼくを見た。
綺麗な穢れの無い彼の目。
そんな瞳がぼくを射抜く。
「…打ち合わせ、続き…しよっか?」
「……っ…は…はい……お願い…しま、す……」
大人って狡いな、って。
こういうとき思う。
でも…やめられない。
何度でも、狡いことをしたくなる。
「…あ、あの…嶺二先輩…」
「んー?」
「…手…これだと……」
そうだね。
ペンを掴んでる手、ぼくが掴んでるもんね。
「…離してほしい…?」
「…えっ……」
ほら。
しょーたん困ってる。
その困ってる顔、照れてる顔。
見たくて見たくて仕方ない。
「…ごめんね。おにーさん、大人げないね。」
クスッと笑っては、その手を一度離した。
そしてソファから立ち上がってはテーブルに手を付いてしょーたんに迫った。
「れっ…嶺二先輩っ…!?」
「…でも…我慢、出来ない。」
そのまま彼の肩を軽く掴み、そして唇を重ねた。
顔を真っ赤にしながらも拒まずにぼくの服の袖を掴み、むしろ頑張って受け入れてくれようとするしょーたんに胸がきゅんとする。
本当…可愛いよ。
どうしてそんなに可愛いのか聞きたくなるね。
人をある一線から受け入れたくないぼくが、ここまで誰かを求めたのは初めてだよ、しょーたん。