短編BL

□余裕なんてない
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「…なぁ。藍。」





PCの前で椅子に座り編曲の作業をしていたボクに声をかけてきたショウ。

ボクは仕方なくヘッドホンを外し、ショウの方を向いた。








今日はお互い特別に仕事もなく、オフと言えばオフだった。

だけどボクにオフとか要らない。

色々なデータを纏める日として大抵使っている。


ただショウはそんなボクに呆れ、仕方ないから一緒にデータを纏めてやる、なんて言ってたけど、本音を言えばショウはボクの仕事の邪魔になる。



使い物にならないね。


あっちこっちミスするし。



仕事、って面じゃ、問題外。






…仕事、って面だけの話なら。








「…何、ショウ。まだ編曲中なんだけど……」



ボクはショウの方に向き直ると、ショウはじっとボクを見つめては視線を外そうとはしない。




「…あのさ。」


「何なの。用があるなら早くして…って……何…?」





ショウはそのまま視線を反らさずに、ボクの前に立つと、ボクが座っていた椅子の背凭れに手をかけては迫ってきた。




「…もうちょっとさ。構ってほしいんだけど。」







ずいっと迫ってきたショウの顔に、ボクは顔を背けたくなり、反射的にふぃっと反らしてしまった。






そう、仕事、という面じゃ使い物にならない。




…でも、恋人、という関係になって。


急にショウと接するのが恥ずかしくなった。




よく解らない感情にどこか戸惑っていた自分がいて、仕事に逃げていたのも確かだ。


ショウが傍にいても問題なかったのは、ボクは今、仕事しか見ていなかったからだ。



だから、最近構っていなかったのも事実。


でも、だからといってどうしたら良いのかも解らない。







「……別に……」




自分でもどうしたら良いのか解らず、ついそう口走っていた。

そんなボクの態度に、ショウは眉間にシワを寄せた。



「…別に、ってなんだよ。」





ぐいっと顔をショウの方に向かされ、目を合わさずにはいられない状態に陥った。





「…ちょっとショウ…やめてって…」


「やめねーよ。藍が俺をちゃんと見るまで。」


「な…に…言って…んっ……!」

散々口では拒んでいたにも関わらず、ボクの唇はショウを許してしまう。


それどころか、もっと、と受け入れては求めてしまう自分がいた。







「…なんで…拒まないんだよ。」





苦笑いを浮かべながらそう少し嬉しそうな顔をするショウの表情に、羞恥心がさっきより一層芽生えた。








「…なぁ…藍…」





耳元で低く囁かれ、その吐息に声よりも先に身体が反応する。






「…っ…何……」



「…俺のこと…好き?」



「はっ…何それ…言わせたいのっ…?」







そう問うと、ショウは“もう一度ちゃんと、藍の口から聞きたいんだ”とボクの思考を拘束するように、甘く優しく囁いた。








「…好き…だよ……ばかちびショウっ……」






「…ばかとちびは余計だっつの…ばか藍…」







上から見下ろしてくるショウを、上目遣いにそう言うと、ショウは上から呆れたように笑いながら見下ろしてくる。







「…なんか…新鮮。」






下から見上げるショウはいつもと違う。




いつも異常に、かっこよく見える。








…なんて。

本人には絶対、口が割けても言わないけれど。








「…うっせぇ…もう黙れよ…」











ショウのむすっとしたその囁きと共に、ショウはボクに顔を近付けてはそっと唇を重ねた。









…うん。


たまには良いかもしれない。



オフの日に、こうやって好きな人と一緒に過ごすことも。













─END─

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