短編BL
□狡いのは君
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「ねーえートキヤートキヤートキヤートキヤートキヤートキヤートキヤー」
「………うるさいです。ちょっと黙っててくれませんか。」
ベッドの上で本を読んでいると、音也が私の背中におぶさってきて執拗なまでに名前を呼んでくる。
「だってー…最近トキヤ、俺に構ってくれないんだもーん…」
私の肩の上で寂しそうな顔をしながら目だけを私に向けてくる。
…まったく…
この男は幾つになってもこんな感じなんですかね…
甘え上手と言いますか…
「…そんなに構ってほしいんですか。」
私は音也の要望に答えるべく、仕方なく本を閉じ、音也に問いた。
「そりゃあ!好きな人には構ってほしいよ?」
好きな人…ですか。
付き合っているくせに、私は貴方のようにそんな風にストレートには言えませんよ。
貴方はどうしてそう、素直なんでしょうかね…。
私はたまに不安になりますよ。
「…それは、どういう意味の好き、ですか?」
「…っえ…どういう意味…って…」
そう呟いては少し考え込みだす音也。
完全に私の照れ隠しな問い。
それさえも貴方は純粋に悩んでしまう。
「あの…トキヤ…」
「…はい?」
「少し…目をつむってほしい、な…」
音也の言葉に従い、私はそっと瞼を下ろした。
少し間があってから、左頬に音也の吐息が当たり、そして柔らかい感触が頬に、ちゅっ…という音共に軽くあたった。
「……っ…!?」
驚きを隠せずに目を開き音也を見ると、恥ずかしそうに私の首元に顔を埋める音也の姿があった。
「…こ…ゆ…意味……伝わった…かな…?」
赤い髪から覗く目だけを私に合わせ、顔の大半は未だに私の首元に隠している。
私は音也のこういうのに弱い。
動物のように、素直で、可愛くて。
私にはまるで無い。
「…全く…音也は…」
私は持っていた本をベッドの上に置き、恥ずかしがっている音也の方を向いた。
「まっ…恥ずかし……」
「何言ってるんですか…そっちから仕掛けてきたんでしょう。」
顔を手で隠そうとする音也の両手を掴み、顔を自分の方へと向かせた。
「…さっきまで私の名前を連呼していたのに…もう言わないんですか?」
クスッと笑みを漏らすと、音也はそれに反応するかのように髪の色と同じぐらいにまで顔を赤く染めた。
「ト…キヤっ…恥ずかし…い…からっ…」
「…だめです…構ってほしいんでしょう?」
「…だっ…だって……」
「…貴方の気持ちは伝わりました。だからもう黙ってください…って…さっきも言ったでしょう……」
「ト…キ……んぅっ……!」
恥ずかしがってなかなか黙らない音也の熱い唇を容赦なく塞ぐ。
優しく唇を挟み込むと、音也も少しずつ応えるように私を受け入れた。
「…っ…そろそろ黙ってくれる気になりました…?」
唇を離し音也を見ると、何も言えませんと顔に書いてあり、思わず吹き出してしまった。
「…ば、か…トキヤっ…!」
拗ねながらぷいっとそっぽを向く音也。
「…ばかはどっちですか。黙らないのが悪いんですよ。」
「…もう黙るもん…ばかトキヤ…」
背を向けていた音也に背中から声をかけると、音也は私のベッドから出て行こうとする。
少し弄りすぎましたかね。
でも、音也弄りは可愛くて楽しい…
なんて言ったら怒られそうですが。
「もう良いんですか?構わなくて。」
ベッドから出ていこうとした音也にそう声をかけると、音也の動きはピタッと止まった。
「自分のベッドに戻るなら、私はまた本、読みますよ。」
先程ベッドに置いた本を、もう一度手に鳥開こうとする。
すると音也はくるっとこちらを向いては、“…トキヤのばか…ずるいっ…”なんて赤面して言い始める。
ずるいのはどっちなんでしょうかね。
そんな可愛い顔して。
赤面しながら睨んでくる音也を見て、私は笑いながら音也を引き寄せた。
「…好きですよ…音也…」
抱き締めながら耳元でそう囁くと、音也はふるっと身体を震わせては、私の背中を掴む。
「…トキヤのばか…俺も…好き……」
音也はそう呟くと、今度は自らゆっくりと唇を重ねた。
─END─