短編BL

□からかいの代償
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そう、それはショウと付き合って間もない頃の話だった。


仕事が終わり、とあるスタジオの廊下を歩いていた時。
近くの楽屋から同じ事務所の後輩たちの声が聞こえてきた。




「今日は良い感じでしたね。」

「そうかい、イッチーがそう言うのなら、良い仕上がりになったかもね。」




イッチー…

確かトキヤをこの呼び方で呼ぶのはレンだ。



「いやーっ…しっかし今日も疲れたー!」



…ん?

ショウの声?

今日ここで収録だったっけ。



聞き慣れた好きな人の声にボクの足はふと止まる。

どうしようか、きっと今日はこれで終わりだろうし…
一緒に帰ろうか…

いや、でも3人は仲が良いし…
よくあるのはこの後ご飯を食べに行くパターンだ。





「どうだい二人とも。この後夕飯でも。このあいだ蘭ちゃんに美味しいレストランを教えてもらったんだ。」

「うおっ!?まじで!?」

「ほう…レンが言う美味しいは外れは無いですしね…興味ありますね。」

「お、二人とも乗ってくれるかい?じゃあ少し休んだら行くとしようか。」




ほらきた夕飯。


レンの言葉にショウはとても喜んでいるようだ。


…うん
これは邪魔してはいけないだろう。

三人は学生の頃からのトモダチだというデータがある。

それにショウがあんなに喜んでいる。
それは邪魔しちゃいけない。



そう思い、ボクは壁の死角に隠れていたのを止めて、また廊下を歩き出そうとした。



「そういやおちびちゃん、最近アイミーとはどんな感じなんだい?」


「ぶっ…!!」





……!?!?





ショウが吹き出したのが聞こえたが、それ以上にボクも一瞬動揺してしまった。



…これはもう少し聞かせてもらいたいね。

そう思いボクはもう一度死角へと入った。



「ど…どんな感じ…って…別に何もねぇよ…」

「何もないわけが無いでしょう。毎晩何もしてないなんて言い張らないで下さいね。」

「ぶっ!」




…トキヤはなかなか鋭い。

レンの洞察力も侮れないのは確かだけれど。

あの中じゃショウが弄られ役になるのは目に見えてわかる。



…いや、まぁトキヤが鋭くなくても、毎晩とか言ってる辺りから部屋越しに聞こえているのだろうと推測できる。




「イッチーそれは言っちゃいけないよ」


そう言いながらもレンの声はショウをからかっている。



「な…んなんだよ…お前等っ…」


…あの様子じゃショウは顔真っ赤だろうね。
きっと言い返すにも言い返せないのだろう。



「アイミーってほら、結構大きいじゃない?おちびちゃん受け止められるの?」

「そうですよね。毎晩の感じからですと翔が攻めとは思えませんし。」




…なるほど。

二人はいつもこんな感じでショウを弄るのか。

それでショウはいつも通りの反応をするのだろう。



「お…前等…なぁっ…」

「おっとおちびちゃん落ち着いて」

「そうですよショウ。ここはまだ楽屋です。」




ショウより大人なのは確かだね。


そりゃあレンは数多くの女性と交際していたようだし、トキヤだって何事にも落ち着いている。




でも、なんだろうね。


このモヤモヤは。




ショウがボク以外に弄られているのを見ると無性に腹がたつ。






「ほら翔。興奮しないでください。」

「おちびちゃん、ほら、興奮するのは夜アイミーの前でね?」








…夜

ボクの前で、か。



そうだね。

これはお仕置きとやらをするしかないね。


ボク以外に弄られているショウに。






「お前等っ…いい加減にっ…」




ショウがそう二人に言い放とうとした瞬間。


ボクは三人がいる楽屋の扉を開けた。






「なっ…藍っ…!?」


「おはようアイミー」


「おはようございます」





…びっくりしているのはショウだけ。



つまり。


ボクが盗み聞きしているのを二人は完全に見切っていた、ということだ。




「…やるね。二人とも…」

「盗み聞きしている先輩に言われたくありませんよ。」

「毎晩盗み聞きしているのはどこの誰?」

「…おっと、独占欲かい?アイミー」





この二人はなかなかペースを崩さない。

それどころかボクの上をいこうとする。


侮れない二人だ。





「えっ…あ…藍!?いつから聞いてっ…」



何も気付いてないのはショウだけ。

ボクが盗み聞きしていたことも知らずにただただ驚いている。





「ほら、行くよ、悪いけど夕飯は食べさせないからね。」

「っ…はぁっ…!?ちょ、藍待てっ…」



驚いているショウの手を掴み、ボクは楽屋を出ようとする。


「翔。今晩は私ちゃんと寝たいので声落としてくださいね。」

「おちびちゃん明日の収録も頑張るんだよ。」




…最後までショウいびりか…

懲りない奴等だ。





楽屋のドアを閉め廊下を歩き出すと、ショウはボクに疑問ばかり投げつけてくる。




「い…いつから聞いてたんだよっ…」

「夕飯云々からかな」

「…ほぼ最初からかよ…」

「それより、いつもあんなに弄られてるの?」




ボクはその疑問を後ろから着いてくるショウに問いた。



「…いや…まぁ…」




そんな曖昧な返答に少し腹がたつ。



でも、そんなのを束縛したところでどうにもならないのをボクは知っている。




だから、



「…今晩、ショウの部屋じゃなくてボクの家に行くよ。」





「…はぁっ!?」





「…じゃなきゃまたからかわれるでしょ。」





ショウを守るためじゃなくて。


ボクのショウを他人に弄られたり、声を聞かれるのが嫌だという個人的な気持ちだけど。





「…これぐらいの束縛は…許してよね。」






そう呟くと、掴んでいたショウの手がボクの言葉に応えるように握り返してきた。








─END─










「ま、これぐらいのアイミーへのイタズラは許されるかな」


「全部翔に向けられるんでしょうがね。」




ここまで見越していた二人でした。



─END─

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