短編BL

□チョコレートよりも甘い
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─トキヤside─







2月14日。


そう、世間では所謂『バレンタインデー』。



音也と秘密で付き合ってる私はチョコレートを渡すか数日前まで考えていた…が。



結局、14日になってしまい渡せないどころか買ってもなければ作ってもいない。






しかも。



「あ…あのっ…音也くんっ…これ…もらってくださいっ…!」


違うクラスの女の子に人気のない廊下に呼び出された音也をつけて、こんな場面を見てしまえば気分は余計に落ちる。



「え…お、俺にっ…?うわぁっ…嬉しい!ありがとうね!」



私には見せないような照れた満面の笑み。


あぁ、あれは女の子相手にしか見せない笑みなのかと悟り、私は行き場の無い感情を秘め、そのまま気付かれないように退散した。









「お…音也くん…いるっ…?」


昼休みにSクラスに来ていた音也を追いかけたのか、Aクラスの女の子が廊下で音也を呼んだ。



「あ、うん!ごめんトキヤ、行ってくる。すぐ戻るよ。」


すまなさそうな笑みを私に向け音也は席を立ち廊下に走っていった。






「音也…朝からずっとあんな感じだなぁ。」

私たちの様子
を見ていたのか、翔とレンが私の元にやってきた。


「まぁ…彼は人懐っこいですし。友人も多いのでしょう。」

私は彼らに、そして自分自身に言い聞かせるように音也のいなくなった椅子を見て呟いた。



「あらあらイッチー…やきもちかい。珍しいねぇ。」


「いえ別に。私は甘いもの苦手ですし。」


からかうような声音に私はレンと目を合わせないよう嘘をつきながらも冷静に対処する。



「…へぇ、そりゃ初耳だ。でも…チョコレートの数で嫉妬してるわけじゃないだろう?…なぁ…?」


「……チョコレートの数なら負ける気しませんね。」



そう言って自分のロッカーを開けると溢れそうなほどのチョコレートの数が現れる。

きっと、事務所にもハヤト宛に届いているのでしょうけど…



「…ひゅー。やるねぇイッチー」

「うっわ…なんだよその数…」


「別に…これはどうってことありません。」



チョコレートの数なんて、ぶっちゃけどうでも良い。


二人の言葉を遮るように、私は席に着き本を広げた。







「…で、イッチーはあげないんだ?」


「……」



レンの鋭い指摘に私の本を読む手が止まった。


「イッ
チーがチョコレートあげるとか、オレは個人的に興味があったんだけど…」

そう意味深な笑みを浮かべて呟いた。


「…別に…あげようがあげなかろうが関係ないでしょう…」


「そりゃあ勿論ないよ。個人的に興味があっただけだし。」


クスクスといやらしい笑いをしながら、レンは私にウィンクをするが、私は見なかったことにした。



「…じゃ、オレはそろそろ行くよ。レディーたちが待ってるみたいだし。…でも、彼は多分君からのチョコレート…待ってると思うよ?」



レンはそう言い残して去っていった。



…待ってる…か…


本当にそうでしょうか…


男からチョコレートなんてもらって気持ち悪くないのでしょうか…





「あいつ…聖川に貰うの楽しみにしてんのかもな。」


「……そう…かもしれませんね。」



貰うのが楽しみ…ですか…


もし…音也が私にチョコレートを作ってくれたら…?




そこまで考えて、私は翔に質問した。



「翔は…彼に…四ノ宮さんにあげるのですか。」


その言葉に翔はぼんっと爆発したように真っ赤になった。



「え…えぇっ…!?お、俺は…そ…その…」




…ほんと…わか
りやすい人ですね。




「…あぁ、わかりました。もう良いですよ言わなくて。」

「勝手に悟るなよ!!!!!!」

「わかりやすい反応をするあなたが悪いのでしょう。」


鼻で笑い、私はまた本に目を戻した。



「…あのさ…言って良いのかわかんねぇけど…音也…お前からのチョコレート…楽しみにしてたよ。」




「……え?」




翔の言葉に私は翔を見た。




「…これ以上は言わねぇよ。ま、お前も頑張れよ。俺からの餞別!」


そう言って翔は私の手に一口サイズのチョコレートを置いて行ってしまった。



「…音也…が…。」


楽しみにしてた…か…



「…これは、迷ってる時間は無さそうですね…」



私は翔からのチョコレートを口に含み、舌で転がしながら、放課後の予定を頭の中で組み直した。
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