短編BL.

□キミと一緒なら
1ページ/1ページ





「藍、そろそろ帰ろうぜ。」

「あぁうん。帰ろうか。」


俺、来栖翔が所属しているアイドルグループ、『ST☆RISH』が結成し、うたプリアワードを受賞してからもう数年の月日が流れていた。
あれからST☆RISHは飛躍的な活躍を遂げ、俺達7人は多忙な日々を送っていた。
もちろん、恋人の藍が所属する先輩グループの『QUARTET NIGHT』もかなりの活躍でシャイニング事務所は知名度と着々と上げていた。

そんな頃、本日12月25日のクリスマスにシャイニング事務所内のとある二人の結婚式が開かれ、シャイニング事務所の人間が殆ど結婚式に招かれた。
社内恋愛から発展した二人の結婚式での姿は誰から見ても幸せそうで、見ているこちらまでいつのまにか涙ぐんでいた。


「ショウってほんと涙脆いよね。」

「うっせ…」

横にいた藍は涙ぐんでいた俺を見てふぅっと呆れたようにため息を漏らした。

披露宴や二次会も終わり、シャイニング事務所の人たちも各々また明日仕事があるとのことで帰り支度をしていた。
藍を呼んだ俺は皆より一足先に藍と会場を出ようとした。

「アイアーイ!翔たん!またね!」

「翔!明日の仕事!遅れないでね!」

「おちびちゃん、ちゃんとアイミーに送ってもらいなよ?」


後ろから聞こえる仲間たちの声を、“おう!”という言葉で返すと、俺はもう一度藍の横に並んで藍と二人で会場を出た。



────────



「藍、明日仕事?」

「昼からね。ドラマの撮影。」

「そっか。あのドラマ、俺楽しみなんだよなー。」


藍の家も、俺の家も、会場からはそんなに遠くなくて、歩いて数十分程だったので夜の街灯がちらつく住宅街の歩道を二人で横に並んでのんびり歩いていた。

明日の話や、最近の仕事の話。
こうやって二人でゆっくり話す機会も最近あまり無く、久しぶりに話せたことにより、俺は少しだけ幸せを感じていた。

結婚式を見たせいもあったのかもしれない。
藍と二人で並んで歩けるという事実がとても幸せなことなのかもなんて染々感じた。


「…今日はあまり喋らないんだね。」

「え?」


少しだけ無言になった時、藍は前を見ながらそう問いてきた。


「普段…ていうか、会えない日が続いた時の久しぶりに会ったショウって、もっと話すから。」

「…そ、うかな…」

「そうだよ。あと3割増しぐらい。」

「……こまけぇな…」

さすがロボットだなとでも言おうか悩んで俺は苦笑した。



「……結婚式、良かったなって。思ってさ…。」


本音を漏らすと、横を歩いていた藍は少しだけクスッと肩を揺らした。

「ショウ、泣いてたもんね」

「ばっ…そうだけどっ…そうじゃなくて…」

泣いていたという事実を少しだけからかわれたのが恥ずかしくて俺は誤魔化すと俺は夜の空を見上げて話始めた。

「なんていうか…幸せそうだなって、思ってさ。ただの恋人じゃなくて…もっと強く結ばれるっていうか…」

心の中にある昂った感情をどうにかして藍に伝えたいのに、自分のボキャブラリーの無さが垣間見える言葉に恥ずかしさを覚えた俺はその言葉を曖昧に終わらせた。


「えっと…何が言いたいかっていうと…つまり結婚ってのも、良いかもなって思ってさ。」



「じゃあ、結婚。しようか。」



「おう……………え?」




街灯の下でピタッと止まった藍の足。
俺はそれを通りすぎて反射で頷いたが、藍の方を振り返り、もう一度聞き返した。



「…藍…今何て…」

「結婚。しようか、って。」


白いチカチカとする街灯の下で、藍は先程の泣いていた俺のことをからかうような表情ではなく、ただただ真っ直ぐに俺を見据えていた。


「…だ、誰と…」

「ボクと、ショウ。」

「え…いや、あの…藍、その…」



“本気なのか?”


“俺、男なんだけど”


急な藍の言葉に、そう、疑問は沢山出てくる。
だけど何も言えなくて俺は藍をただ見つめるしかなかった。

するとそんな俺を察したのか、少しだけ張り詰めていた藍の真面目な表情がふっと和らいで軽く微笑んできた。



「ショウはボクと、結婚したくないの?」



首を傾げて、微笑む藍。

それを見た瞬間、何かを言いたかったけれど
自分の中で沢山の疑問を全て藍にぶつけたかったけれど

でも、それ以上に、ただ藍への気持ちが溢れる方が先だった。


「……ショウ?」


押し黙った俺を少し心配したのか、藍はそっと声をかけてきた。
俺はその言葉を無視し、口を開いた。



「…俺…俺……藍と、ずっと…ずっと一緒に…いたい…っ……!」




無我夢中でそう言い放つと驚いた顔をした藍の胸へと思いきり飛び込んだ。

男だとか、ロボットだとか、アイドルだとか、そんな肩書き捨てて。
それでも人間として、ただ人間として、『藍』という存在を愛してるんだ、俺は。

だから、結婚とか、それ以上に藍とずっと一緒にいたい。


「…また泣いてる。」


真っ暗な視界。
だけど頭の上から藍の微かな笑い声が聞こえた。

「っ…これは…藍のせいだっ…」

そう言うと、少しだけ俺の頭を撫でていた藍の手が下がり、藍は自分のポケットを探っていた。

「…全く……ほら、これあげるから。泣き止んで。」

「………え?」


藍の胸から顔を離した俺の掌に乗せられたのは銀色の細いリングだった。
俺はただ呆然とそれを見て、そして藍の顔を呆けた顔で見た。


「………は…え……藍…?」

「ただのクリスマスプレゼントだよ。左手、出して。」


驚いて、ただ言われるがままに左手を出すと、藍は何も言わずにそのまま俺の左手の薬指にその指輪をはめた。


「……結婚指輪じゃないからね、それ。勘違いしないでよ。」


“ほんとにただのクリスマスプレゼントだから”


そう念を押す辺り、多分ほんとにクリスマスプレゼントなのだろう。


「結婚指輪は…また今度一緒に買いに行こう。」


結婚指輪を買ったら、どう見ても高そうな、この今嵌めてくれた指輪はどうするんだとか言いたかったけれど。
でも、藍の温もりがまだ残っている指輪を当分は外したくなかった。

「……あぁもう…ショウ顔ぐちゃぐちゃ。」

「う…うるせ………」


涙で濡れた頬を、藍にそっと撫でられた。
優しく拭ってくれる藍の指が愛しくて、俺は藍の指をそっと掴むと、藍の顔をゆっくりと見上げた。



「……俺…美風…翔に…なんのかな…」

「別に来栖藍でも良いよ?」


そんなところ気にするの?とでも言いたげな藍は笑ってそう言った。

でも俺は両方の選択肢を考えて、そして口を開いた。



「……藍の…嫁…が……良い…俺…」



これ、結構真剣で、本気だったんだけど。俺。
呟くように言ったその言葉を捉えた瞬間、藍の顔から笑顔が消えた。

そして次の瞬間、俺の顔に藍の顔の影が落ちた。


キスされてる、と頭が理解したのはその数秒後。
唇の柔らかさとか感じている暇も無く、スッと何の躊躇いもなく俺の口内に入ってきた藍の舌に俺はただ藍の肩にしがみついて震える足を何とか堪えようと堪えた。


「……そういう可愛いこと言って…ボクをどうさせる気?」

「な゛っ…べ、別にそういう意味じゃっ……」

「…そう、無意識なんだ?じゃあ、今から調教しなきゃね。ボクの嫁になるなら。」

「ッーーー!?」

「ほら、早く帰るよ…っと。結婚するなら早く新居も見つけないとね。どんな家が良い?美風翔さん?」

「おまっ……ばかっ!藍のばかっ!!」


弄るようにして俺を捲し立てる藍は、それでもどこか楽しげで幸せそうで。
恥ずかしがる俺の右手を引いて、また帰路を歩き始めた。



「……ねぇ、ショウ。」


静かな住宅街に、無言だった藍の声が響いた。


「………ん?」


藍の方を向いて返事をすると、藍はこちらを見ずに、代わりにぎゅっと俺の手を強く握った。



「………ありがとう。」



その呟いた言葉に、どんな意味が込められているのかはわからないけれど。

俺は藍の手を握り返して、前を見て。



「俺も…ありがとう…藍…。」



“俺を、好きになってくれて”


“俺を、選んでくれて”


“俺を、愛してくれて”



これからも、ただ、ずっと、藍を愛していきたい。




そんな誓いを、クリスマスに込めて。





─END─


20131228

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ