短編BL

□mu●ic2をやった藍
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「…ショウ。」

「ん?なんだよ藍。」

「ちょっとこっちに来て。」


俺、何かしたっけな。

今日は二人ともオフで、藍の家で所謂『お家デート』みたいなのをしていてまったり各々の好きなことをしていただけのはずだったんだけれど。

藍はソファーに座りながら自分の青色のゲーム機を持ち、しかめっ面をして俺を見ている。


なんだぁ…?
俺、マジで何かしたっけな…



「どうしたんだよ。そんな顔して。」

「そこに正座して。」

「はぁ?なんで…」

「良いから。ボクは今怒ってるんだ。」

「だからなんで…」

「早くして。先輩の言うこと聞けないの?」

「おまっ…こういうときだけ先輩とか…」


とりあえず怒っていることは本当のようで、俺は仕方なくソファーに座っている藍の目の前の床に正座した。

ソファーに座っている藍の目の前で正座ということは当然俺の目の前には藍の足があって、下手したら直ぐにでも足蹴りされそうな近さだ。


「…で…なんだよ…」

「あのさ、今、これやってたんだけどさ。」


見せられたのは藍が持っていた青色のゲーム機のディスプレイ。
そのディスプレイにはでかでかと『うたの☆●リンスさまっ♪ mu●ic2』と書かれていた。


「…それ、シャイニング事務所のアイドルソングのリズムゲームじゃん…お前なんでそんなんやってんだよ」

ついこの間、発売されたばかりのゲーム。
アイドルソングということは勿論俺たちの曲も入っているわけで。
生の歌がしょっちゅう聴ける場所にいるのにわざわざ藍はそれをやっていた。


「新しいものや自分や仲間が仕事したものをやるのは普通だと思うけど。ましてや恋人が出てるのに興味無い方がおかしいとボクは思うんだけど。」

「…まぁ…それはな…」


藍が出てる、それだけで何でも見てしまう癖がついた。

だって、藍の色んな姿や表情、全てを見ておきたいと思うから。


つまり。
俺もやった。


「つーか、お前は何で怒ってるんだよ。」

「話はまだ続いてる。それで、これは何なのって聞きたいんだけど。」

「はぁ?これって何…」



『好きにして良いんだぜ』

聞き慣れた声…というか、もろ自分の声が藍の持っていたゲーム機のスピーカーから漏れた。


「いや…これは設定のところを…」


変えるときの声をかけるシステムパートナー機能っつーやつで…

って、別に説明するまでもない。
だって藍もこの仕事をやっているわけで。

そんなのを説明したってどうしようもないのは、藍の鬼のような顔を見ればわかった。


「好きにして良いってどういうこと」

「いや…だから話聞けって…」

「今からシステムパートナーもカスタマイズを全部ショウにして、他の奴らの声は全部抹消としてたんだけど。」

「おまっ!?!?」

「こんなの聞いたらちょっと洒落にならないよね」

「いや…だって…」

「だってこれ、ボク以外にもこう言ってるってことだよね」

「…だ、だから…」

「絶対これ、トキヤやレン、レイジ辺りは興奮するよ」

「なっ…なんであいつらが…」

「100万歩譲ってファンの子たちは許す。でもそれ以外は許さない」

「お…お前なんかキャラ変わって…」

「だから、お仕置きね」

「はぁっ!?なんでだよっ!」

「なんでって…言わなきゃわからない?ボク以外に好きにして良いなんて言ったからに決まってるでしょ?」


無茶苦茶なマシンガン理論に勝てるわけがない。
こいつに喋らせたら勝つ気がしない。
大体俺の話も聞こうとはしない。

それでも、俺は既にゲームをやった身として、その藍の言い分から一つだけ納得いかないことがあった。



「あ…藍だって…」

「ん?」

「ちょ…ちょっとゲーム機貸せよ!」

「はぁ!?ちょっと何してっ…」



『っ、もっとっ…!』



ゲーム機からは藍の下手したらいやらしく聞こえる声が流れてきた。

所謂コンボボイスというやつで、コンボ数に応じてアイドルが何かしら応援してくれたり怒ったりする機能なのだが。

何があったのかわからないけれど、コンボボイスで藍はこのセリフを言うのだ。

…いや、正直、俺のさっきの言葉よりもこれはダメだろ。
いくらコンボいったからって、こんな声流したらダメだろ。

俺は何も言わず、そんな雰囲気を醸し出しながら藍を見た。

すると藍は少しだけ気まずそうにして俺から視線を反らした。


「………別に、ただ“もっと”って言ってるだけじゃない」

「…俺にはそう聞こえなかったけど」

「それはただショウがそういう風にしか聞いてないからなんじゃないの。エロ餓鬼」

「な゛っ!?エロいのは藍の方だろっ!お仕置きとか言ってたじゃねぇか!」

「そっ…それはまた別の話でしょ!だいたい好きにして良いなんておかしいと思うんだけど!」

「それだってお前の聞き方がおかしいんだろ!エロロボ!」

「はぁっ!?ボクがエロいわけないでしょ!?」

「今更何言ってんだよ!いつも俺に───なことや────なことしてくんのは誰だよ!」

「それで悦んでるのもまた事実でしょ。」

「よっ…悦んでるとか言うなーーっ!」


俺がそう叫び、肩を上下させながら二人で一息つくと、藍はふぅっとため息をついてゲーム機を見た。


「…まぁ良いよ。じゃあこれはお互い様ってことで。許す。」

「…藍…」

「でも、好きにはさせてもらうから」

「へっ…!?な、何する…」


チラッと俺を見やる藍の視線に少しだけ身構えると、藍はクスッと笑ってゲームに目線を戻した。


「ゲームをショウに完全カスタマイズするだけだけど…何か期待した?変態ショウさん。」


勝ち誇ったような笑みを上から浴び、恥ずかしさが以上に増す。


「きっ…期待なんかしてねーよ藍のバカっ!!!!」


「…ショウはほんと、可愛いね。」


「かっ…か…可愛いとか言うなっ!一生ゲームしてろバカ!」



ほんと、可愛くない。

でもこんな一時がすげー幸せだって思う俺こそ、ただの幸せバカなのかもしんない。



─END─



翔が藍の『もっと』を聴いた時の反応



『っ、もっと…!』


「ぶっ……!?!?////」←手元狂い


『コラ』


「げほっごほっごほっ!///」←ゲームどころじゃなくなる



─END─

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