[続]初恋cherry.(1〜77)
□65話
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「ちょ、ちょっと!どこ行くんですか?」
「あ?俺達3人はファミレスで咲季の内定祝いとお前の残念会だよ」
「っ、残念会って、美緒、別にもう諸星先輩のことは…」
「ええよええよ、わかっとるから」
「お前も頑張ったけどな、あの2人は離れねぇよ」
「……美緒、わかってましたもん」
「諸星先輩、彼女さんの話するとき、めちゃくちゃ嬉しそうだったから……だから、恋人は無理でも友達になれたらな…って思ってたらさっきのですよ!何ですかあれ!3年以上付き合っててもあんなにラブラブでいられるものなんですかぁ!?もー美緒の心ズタズタですよぉ!」
「美緒チャンには美緒チャンにピッタリな人が現れると思うで?」
「そうだぞ。つーか今だってこんな良い男2人も連れて贅沢すぎだろ」
「………諸星先輩が良いです」
「お前ふざけんなよ」
「あっくんショックやわあ〜」
「でも……ありがとうございます」
しばらくの間は咲季を抱き締めたままだったけど、いつまでもこうしておくわけにもいかない。
名残惜しいけど、いったん抱き締める腕を解いた。
「ごめん、帰ろっか」
「ふふ、うん」
恥ずかしそうに笑う咲季を見てまた抱き締めたくなったけど、我慢。
帰ろう。帰ったら咲季と2人きりだ。
手を繋いで帰りながら、橋本さんのことを話した。
告白されたこと、断って友達になったら毎日俺に会いに来ていたこと、三井や土屋が一緒だとはいえ一緒にメシ食ったり帰ったりしてたこと。
全部話した。
「ごめん、黙ってて。咲季に余計な心配かけたくなかったんだ…」
こんなこと今更聞かされて、嫌だよな。怒ったかな…?
さすがにちょっと不安になる。
「そっかあ…諸星くんのこと大好きなんだね」
「…咲季、怒んないの?」
俺が逆の立場だったら確実に怒ってる。
怒るっていうより、スネてふて腐れてると思う。
「…ヤキモチは、やいたよ?いつも諸星くんの近くにいられて、一緒に帰ったりできることが羨ましくて…ちょっと嫉妬しちゃった…でもね、私もずっと諸星くんが大好きだったから、橋本さんの気持ちわかるんだ。だから、ちゃんと行動してる橋本さんはスゴイなあって…」
こんな風に相手の気持ちになって思いやることができる咲季のこと、本当に凄いと思うし、そういうトコ、すげえ好き。
あ、そうだ。
「俺も咲季に報告しないといけないことがあってさ」
「報告?」
「うん」
「俺、愛知のチームに行くことにした」
「…っ、ほんと、に?」
「うん、本当。愛知の監督が熱心に通ってくれてさ、“チームの中心になるのはキミしかいない!”“本物の愛知の星にならないか!”って言うんだよ。すげえ嬉しくて、俺まんまと乗せられちゃったよ」
「ふふ、そうなんだ?」
「実はちょっと前から決めてたんだけど、咲季の就職が決まってから言おうと思ってて……待たせて、ゴメンな?」
「ううん。…そっか、、そうなんだぁ、嬉しい…っ!」
咲季の目はうるうるしてて、今にも泣き出しそう。
ずっと保留にしてたから、本当は不安だったんだろうな…
でも何も言わずにずっと俺の答えを待ってくれて…
喜んでくれて良かった。
安心させてあげられて、本当に良かった。
「よし、お祝いにケーキ買って帰ろうか!」
「うん!」
……結局、そのケーキは食べずじまいだった。
家に帰るなり、頭のネジが飛んだ。ぶっ飛んだ。
何て言うの?こう、愛が爆発したっていうか。
今まで会えなかった寂しさと、今日会えた嬉しさと、あとは、咲季が可愛くて、可愛くて…どかん。
咲季がもう無理ってギブアップ宣言してから数回、俺も力尽きて2人してそのまま寝てしまった。
朝、目が覚めたら隣に咲季の姿がなくて。
腕の中に閉じ込めていたハズなのに、いつの間にか空っぽになっていたことが寂しいなと寝起きのぼんやりした頭で考える。
ベッドに横になったまま辺りを見渡していると、脱衣所から咲季が出てきた。
「あ、諸星くんおはよう。お風呂借りました」
「ん、おはよ」
「諸星くん、大学何時から?」
「適当に行くから大丈夫」
「咲季、おいで」
「起きなくて大丈夫?」
俺の心配をしてちょっと困ったような表情の咲季の腕を引いて、ベッドに座らせる。
柔らかい膝に頭を乗せて、
「咲季、もう1回しよ?」
下から見上げてお誘いすると、風呂上がりのピンクの頬が赤く染まる。
「…昨日、いっぱいしたのに?」
「うん、もっかい」
「…部活、ツラくならない?」
ほら、また俺の心配。
「余裕。キャプテンだし」
「ふふ、そっか、キャプテンだもんね」
「もっとこっち、おいで」
愛知の監督から言われた言葉は、実はもうひとつあって。
『愛知にはキミにとって大切な人達が沢山いるだろう?その人達にキミのプレーをみせたくないか?』
そうだよな、って思った。
咲季も、家族も、愛知にいる。
愛知でプレーすれば、今よりも沢山、大切な人達に俺のプレーを観てもらえる。
それってすっげー幸せじゃん、って、ストンと心に落ちてきて。その言葉が決め手になった。
これからは最後のインカレに向けて、来年の春からはプロとして、俺頑張んなきゃなあ。
とりあえず今は、目の前にいる大好きな彼女を愛することに専念するから、この話はまた後で。
「咲季、好きだよ」