[続]初恋cherry.(1〜77)

□64話
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そろそろかな…


本屋さんで雑誌を買ってから近くのカフェで時間をつぶしていると、諸星くんから部活が終わったとメールが届いて店を出た。

いつも大学から帰るときに諸星くんが通る門の前で胸を踊らせながら彼を待つ。


ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ、


諸星くんが私を見つけてどんな反応をするか頭の中であれこれ妄想していると、数人のグループがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。


諸星くん、かな?

さすがにまだ遠くてハッキリとはわからない。

背格好からして、男の人が3人で、女の人が1人……てことは諸星くんではないか…
マネージャーは男の人だって言ってたし。


….ん?でも、やっぱりそうかも。
あの歩き方、諸星くんだ!

ほら、隣の人が私の方を指差してるもん。土屋さんだ!三井さんもいる!


……一緒に歩いてる女の子、誰だろう?

何となく諸星くんとの距離が近い気がする…


…ううん、気のせいだよね。
諸星くんと女の子が一緒に歩いてるだけでいちいちモヤモヤしてたらダメだ。

もう、自分の心の狭さが嫌になる…


土屋さんと三井さんに声をかけられて返事をするも、心の動揺が抑えられなくてぎこちないものになったのが自分でもわかった。

今の私、絶対素っ気なかったよね……普通にしなきゃ。

…でも、諸星くんの隣に立っている女の子が気になって……

それに、彼女からの視線もすごく感じる。痛いくらいに。


「もしかして諸星先輩の彼女さんですかぁ?」

まさか話しかけられるとは思わなくて、ドキンと心臓が跳ねた。

「あっ、はぃ…そうです」

落ち着け私…平常心、平常心。


「私、3年の橋本美緒っていいます!諸星先輩のファンで友達です〜!」

「どうも初めまして、川瀬咲季です」

元気で可愛い子だなあ。
スラッとしててスタイルも良いし。
諸星くんのファンで、友達…

そっか、友達……


「諸星先輩にはいつもお世話になってます!彼女さん可愛くてビックリしちゃいましたっ」

彼女のキーの高い声と勢いある話し方に、私は愛想笑いで返すことしかできない。


「諸星先輩、スッゴイ優しいですよねぇ!彼女さん超羨ましいです〜!」

諸星くんだって女友達くらいいるよね。
今までたまたまこういう場面に遭遇しなかっただけで、普通のことだって頭ではわかってる。

誰にでも気さくで優しい諸星くんのことが、私は大好き。

でも、諸星くんはいつもこの子に優しくしてるんだって思うと、ちょっと、ほんのちょっとだけ、嫌だ。

ただのヤキモチ。わかってる。



「咲季チャン久しぶりやね」

「お前どうしたんだよ、まだ休みじゃねえだろ?」

「あっ!あの、今日第一希望の内定もらえて、報告に…」

そうだった、私、これを報告しに来たんだ。
目の前にいるこの子のことが気になって、一番伝えなくちゃいけない大事なことを忘れてた…


「うお!マジか!」

「咲季チャンおめでとう!」

「わぁ〜!おめでとうございますぅ!」


三井さんには“よくやった!”って頭をグシャグシャに撫でられて、土屋さんとはハイタッチした。


「…大チャン?」

「おい諸星!何固まってんだ!咲季が内定もらったってよ!」


諸星くんは、さっきから何も言わず、動かず、ただ立ったままで。

どうしたんだろう?
私が急に来たからビックリさせすぎちゃったかな?

それとも、何かあるのかな?

つい悪い方向に考えてしまう。


「…諸星くん?」

「咲季…」

「久しぶり、だね?」

「っ、咲季!」

「わっ!」


諸星くんが飛びつくように向かってきて、ギュっと私を抱き締めた。


「咲季、咲季、おめでとう!」

「あっ、あの、諸星くん、皆見てるから、あの…」

「おめでとう!おめでとう!…あー、咲季だ、咲季の匂いがする、やば、嬉しい、もー何でこんな可愛いことすんの?やべー…」

諸星くんは、何度も何度も“おめでとう”って私を腕の中に閉じ込めながら独り言のように呟いて、



「咲季…やっと会えた」



「うん…っ」







「おい!美緒!行くぞ!」

「えっ?あ、諸星せんぱ…」

「美緒チャン?ここからは恋人同士の時間やで?」


「おい諸星!今日の礼はしてもらうからな!」

「おー」

諸星くんは私の首に顔をうずめたまま返事をしたから、三井さんにはよく聞こえなかったんじゃないかな…


「咲季チャン、今度お祝いのチューしたるからね〜」

「土屋、明日潰す」

多分、これも。
でもこれは聞こえてない方が良いよね。



“また咲季のメシ食わせろよー”って、3人は先に帰って行った。

私は、諸星くんに抱き締められたまま。

周りを何人かの人が通り過ぎる足音がする。

これ、絶対見られてるよね…恥ずかしい…


……でも、良いや。


さっきまでモヤモヤしてた気持ちも、ビックリしてどこかに飛んで行っちゃったよ。

前もこんなこと、あったなあ。
私が諸星くんのファンの子に勝手にヤキモチ焼いて…

でも諸星くんは全然ブレないんだ。
まっすぐ、まっすぐ、私を愛してくれる。

わかってるはずなのに、信じてるはずなのに、私の心はすぐグラグラして不安になって……本当に情けない。

反省は後でする。ちゃんとするから。



今、幸せだから。良い。


やっと会えた。

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