[続]初恋cherry.(1〜77)
□23話
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飲み会の翌日、私は売店で飲み物を買って、自分の学部に戻ろうとしていた。
「おった」
背後からボソッと声がして、ん?私?と振り向くと、
そこには
「メシ、食うた?」
昨日カラオケで話した南さんが居て。
「あっ、こんにちは。…ん?」
ん?え?今、何て言った?メシ?ごはんが、何?
「もうメシ食うた?」
無表情で見下ろされる。
「あっ、いえ、まだ、ですけど…」
その迫力に圧倒されて、途切れ途切れに返事をすると、
「ほな行こ」
くるりとかかとを返して、南さんは歩き出した。
「えっ!?」
私は訳がわからないまま、南さんの後を追った。
ザッザッザッザッ
たったったったっ
これ、南さんと私の足音。
南さんも高校時代バスケ部だったそうだから、身長が高い。
だから足も長くて、私とは歩幅が全然違う。
小走りになりながら、南さんの後ろをついていく。
何が起きてるのか把握しきれず頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべながらも、諸星くんと歩くときはこんなことないから、諸星くんはいつも私に合わせて歩いてくれてたんだなあって思って嬉しくなった。
こんなときに妄想なんてどうかしてるけど、何ていうのかな、現実逃避?うん、現実逃避。
今起きていることが全く理解できていないから、違うことでも考えなきゃ私の頭の中がハテナで埋まってしまいそうで。
むしろ、すでにハテナ8割くらい。
学食について、南さんが何も言わずに私の分の支払いもしてくれた。
慌てて『払います』って言ったけど、断られてしまった。
完全に南さんのペースにあたふたする私。
「あの、南さん」
「?」
「私に何か用事ですか?」
昨日偶然会って少し話しただけの私を急にゴハンに誘うなんて、何か用事があるのかって思うのは当然の疑問だと思う。
「別にあらへんけど」
定食のお味噌汁をすすりながら答える南さん。
私の頭の中のハテナは9割に増えた。
じゃあ、何で?
1人でゴハン食べるの寂しくて、たまたま居た私を誘っただけなのかな?
「岸本と…
「あっ、はい」
あれこれ考えていたら南さんが喋り出した。
「岸本とアンタのツレに、アンタのこと聞いててん。俺と同じ大学やって。せやから昨日は驚いたわ…」
「私も、驚きました。諸星くんのことも知ってたし」
「あいつ有名やん、愛知の星」
「諸星くん、東京の大学でバスケ頑張ってますよ」
「…遠距離?」
「あ、そうなんです」
「ふーん」
南さんって、確かに無愛想だけど、ちゃんと返事や相槌はしてけくれるし…良い人だな。
ちょっと人と話すのが苦手なだけなのかもしれないよね。
それから、短い会話をいくつかしながら食事を終えると
「付き合うてもろてスマンな」
ボソリと呟いて南さんは去って行った。