初恋cherry.(1〜32)
□25話
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「もうすぐ国大だね。頑張ってね」
「うん。最後の大会だから気合い入れて頑張るよ!」
「中間テストもあるから大変だよね」
「げっ!テストいつからだっけ?」
「再来週からだったと思うけど…ちょっと待ってね」
鞄から手帳を取り出して、日程を確認する。
「あ、写真だ。見ても良い?」
諸星くんが、手帳に挟んであった写真に気づいた。
「うん、いいよ」
「あ、原田さん。浴衣だ。夏祭り?」
「そうだよ。ユッちゃんと一緒に行ったんだ」
「すげえ、可愛い。俺も川瀬さんの浴衣姿見たかったなあ」
諸星くんにとっては何気ない言葉なんだろうけど、その言葉は私をドキドキさせる材料でしかない。
「来年も、着るよ?」
私にしては大胆な発言をしてみると
「やった!約束な?」
ニコニコと喜ぶ彼に、心があったかくなるのを感じた。
「あーっ!これ!文化祭のときのやつじゃん!俺女装してるし、恥ずかしすぎ!」
文化祭でユッちゃんが撮ってくれた写真を見つけて絶叫する諸星くん。
「あ〜でもあの時の手羽先、すげえうまかったんだよなあ。今日のお弁当もうまかったしさあ、川瀬さん本当料理上手だよね?俺結婚するのは絶対料理上手な子が良いんだよね」
け、けっ、こん。
何か言わなきゃと思うものの、結婚というフレーズに反応しすぎて言葉が出てこない。
「あっ、ごめん!俺、そういうつもりじゃなくて、いや、そういうつもりじゃないこともないんだけど、とりあえず言いたかったのは、川瀬さんが料理上手だってことで!…はい」
珍しく諸星くんが慌てて弁解する。
「うん、ありがとう」
心がくすぐったくて、それしか言えなかった。
諸星くんが次の写真を見ようとする。
…あれ?次って確か……
「あー!それはダメっ!」
焦って制止しようとするも、時すでに遅し。
私の手は間に合わず、諸星くんは写真を見ていた。
「これって…」
そこに写っていたのは、諸星くん。
2年生の修学旅行のときのもので、諸星くんの写真が欲しくて、彼が写っているのを探して買ったんだ。
「…引いた、よね?」
諸星くんの方を見れない。
絶対幻滅されたよね。
「引くわけ、ないじゃん。すげえ、何か、もう、嬉しい。何で俺、もっと早く川瀬さんと知り合えなかったんだろ。川瀬さんは俺のこと見ててくれたのにさ」
「っ、諸星くんはバスケ頑張ってたんだから仕方ないよ!クラスも違ったし」
嬉しい、って言ってくれた。
もっと早く知り合いたかったって。
諸星くんの気持ちが嬉しくて、涙が出そうになった。
「…うん。俺達これからだもんな!よし!じゃあ2人の写真撮ろうか」
そう言って諸星くんは携帯を取り出す。
「川瀬さんこっち来て」
「あ、はい」
隣に座れば、諸星くんの顔がググッと近づいてくる。
頬が触れ合いそうなくらい、近くに。
やばい!近い!近い!
心臓がドクドクと鳴り響く。
「じゃあ撮るよ」
「よし撮れた。今川瀬さんにも送るね?俺、待ち受けにしよ」
「ありがとう」
私も、待ち受け決定。
毎日眺めてニヤニヤして、ユッちゃんにからかわれるのも多分決定だと思う。
「あ、届いたよ」
カチカチとボタンを押して、待ち受けの設定をする。
「川瀬さんも待ち受け?やった」
諸星くんが私の携帯画面を覗き込む。
「うん」
私が顔を見て返事をしようと横を向くと、諸星くんと至近距離で目が合った。
「…っ」
顔が真っ赤に染まる。
目がそらせない。
諸星くんも私の目を見ている。
まばたきも、できない。
「ギュッてしても、良い?」
諸星くんが口を開いた。
私は、黙って頷いた。