◆Aroom

□ふわふわ甘いやつ
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「しゅんぺー」


2時間目が終わった休み時間、甘い香りと共に、彼女の名前が俺のクラスまでやってきた。


「調理実習で作ったカップケーキ、欲しい?」

「うん、チョーダイ」


俺の目の前でカップケーキの入った包みをユラユラさせながら『自信作!』とか言いながらドヤ顔で見下ろしてくる。

右に左に揺れる包みをワザとらしく目で追うと

「あはは、俊平犬みたい!はい、お手
!」

「わん」

「はい、どうぞ」

楽しそうにお手を要求する彼女に素直にお手する俺。優しいなー。

でもこういうノリ、結構好きだったりする。


つーか、“欲しい?”なんて聞いてくるけど、俺にくれるためにわざわざ来たんだろ?可愛い奴。


ラッピングされた袋を受け取ると、さっきから匂っていたお菓子独特の甘い香りが更に近付いて鼻をくすぐる。

と同時に胃袋が“ぐぅ”と鳴って催促してきて。

育ち盛りの俺は昼休みまで待てるわけもなく……


「今食っても良い?」

「うん、良いよ」

「じゃあいただきまーす……ん!んまい!」

「良かったぁ〜」

「また作って」

「えへへ〜良いよ」


ニコニコと喜ぶ名前の手には、俺にくれた包みと同じものがもうひとつあって。


「それは?」

名前が自分で食べる用かなと何気なく聞いてみると、


「これ?これはね〜雷市くんにあげるの」

「雷市?」

「うん!だって雷市くん食べ物あげたら顔真っ赤にして喜んでくれるんだよね〜それが可愛くてさあ」


名前が雷市に食べ物をあげてる現場は何度か見たことはある。
というか、俺もその場に居ることがほとんどだし。

彼氏の後輩を可愛がる姿は微笑ましい光景だ。


ただ…


何となく、本当、何となく、今日は

『つまんねぇ』

って思った訳で。


これ、本当たまたまの感情。
だって普段は全然何とも思ってないし。
むしろ、後輩にも良くしてくれてサンキューって感じ。

俺、ムラあるよなー。自覚はしてる。



「ちょっとそれ貸して」

「?ん」


包みを受け取るやいなや、カップケーキを取り出して素早く口の中に放り込んだ。


「あーっ!ちょっと俊平食べないでよ!雷市くんのなのにぃ!」


モグモグと口を動かす俺に

「わーんヒドいよー!出して!でも出したら汚いからやっぱり出さないで!でも〜〜雷市くん〜〜」

絶叫しながらポカポカと俺を叩いてくる。
でも全然痛くないんだな、これが。



「はいひひははらへ〜」

「も〜何言ってるかわかんないよ〜」


ごくんと飲み込んでからもう一度。

「雷市にはやらねー」

「俊平そんなにお腹すいてたの?」


わかってねぇなあ、こいつ。

まあ、わかるはずもないよな。


「雷市だけにやったら、ミッシーマとか秋葉が可哀想だろ?」

なんて、今思いついた言い訳を口にすると

「あぁ、そっかぁ、、」

唇を尖らせながらも納得してる名前。


…本当、わかってねぇなあ。



悪ィな、雷市。お前いつも腹空かせてんのに。

後で購買のパンでも奢ってやるから勘弁な。



たまにはこういう俺も、良いだろ?

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