[続]初恋cherry.(1〜77)
□36話
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インカレ初戦の日。
私は朝諸星くんを見送って支度を済ませて足早に会場に向かった。
早めに着いたから諸星くんのチーム側の最前列に座ることができて、ドキドキしながら試合開始を待つ。
試合前の練習が始まって、ひたすら諸星くんを目で追った。
まだ試合も始まってないのに、諸星くんの姿がキラキラ眩しくて。
はぁ〜格好良いよぉ〜
いまだにあの諸星くんが私の彼氏だなんて信じられないって思っちゃうんだよね。
練習が終わってベンチに戻る諸星くんが私に気づいて、目が合った。
ニッと笑いかけてくれて、私も手を振っていたら……
諸星くんが応援席の下まで駆け寄ってきてくれた。
「咲季っ!」
「!?はっ、はいっ!」
声がうわずってしまった。
だって、まさか声を掛けられるだなんて思ってもみなかったから。
「俺今日の晩ごはん、グラタンが良いな」
!!!!!
驚きすぎて、コクコクと頷くことしかできない。
「俺シーフードな」
「ボクはチキンとアスパラが入ったやつがええな〜」
諸星くんの様子を見た三井さんと土屋さんもリクエストに駆けつける。
「ばーか、お前らのはねぇよ」
3人で話しながらベンチへ戻って行く。
そんな3人の姿を見ながら、私はまだ驚きがおさまらい。
だって、諸星くんがバスケに集中してるときにギャラリーに話しかけることなんてないから。
高校時代の付き合い初めの頃も、シュートが入ったときに笑いかけてくれることはあっても、声をかけられることはなかった。
だからさっきのは、めちゃくちゃレアなことで。
多分……昨日私が不安になったって言ったからなんじゃないかと思う…
昨日の諸星くんのファンの子や、他の女の子がさっきのやりとりを見ていたかどうかはわからない。
それでも、嬉しくて。
私は諸星くんの特別なんだって改めて思えて、嬉しくて嬉しくて……ちょっと泣きそうになってしまった。
試合は諸星くんの大学の圧勝。
諸星くんの活躍も見れて、大満足で諸星くんの家へ帰った。
リクエストのグラタンの下ごしらえをしながら諸星くんの帰りを待つ。
グラタンだけじゃ足りないだろうから、ご飯も炊いてドリアも作ろうかな……
なんて考えながらホワイトソースをかき混ぜる。
炊飯器のスイッチを押したところで、ドアの鍵が開く音がした。
あ!諸星くん帰ってきた!
パタパタと玄関に向かうと、ドアが開く。
「咲季っ、ハァ、ただいまっ、ハァ」
「!?おかえりなさい…どうしたの?」
走って帰ってきたのか、諸星くんの息は弾んでいて、額にはうっすら汗が滲んでいた。
「早く、咲季に会いたくて…ハァ、ミーティング終わってダッシュで帰ってきたっ!」
「…わっ!」
言い終えた途端、抱き締められて。
「………今日勝ったからさ、ご褒美、ちょうだい?」
耳元で諸星くんがささやく。
『グラタン作ったよ』
とか
『土屋さんと三井さんは?』
とか
言いたいことは色々あったけど、というか、“試合お疲れ様”の一言すら言ってないけど、
「………うん」
私を求めて走って帰ってきてくれたことが愛しくて……
彼の背中に腕をまわした。