◆Aroom
□いくじなし子ちゃん
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※『OH MY GOT!』の2人です。
「ハァ………」
放課後のグラウンドで、ため息が白い息となって空を泳ぐ。
フェンスの向こうでは野球部が練習に精をだしている。
真田くん、今日もカッコイイな。
今日も、昨日も、きっと明日もカッコイイ。
「ハァ………」
昨日のことを思うと、胸が痛い。
今日の日付は2月15日。
バレンタインは、昨日終わった。
昨日、片想いしてる大好きな真田くんに本命チョコを渡すことができなかった。
いや、チョコ自体は渡した。
渡したんだけど、皆と同じやつ。友チョコ。
冷凍パイシートに板チョコを挟んで焼いた超簡単ミニチョコパイを大量に作ってクラス中にばら撒いた。
だから一応真田くんにチョコは渡ってる。
『おー!サンキュー!』って笑って受け取ってくれた。
けど、違う。
私が渡したかったのはあんなばら撒きチョコじゃなくて。
今手に握りしめてる、これ。
ケーキ屋さんで買った、クマとハートのチョコレート。ちなみにお値段、1500円也。
手作りの方が良いかなって思ったけど、手作りチョコで告白って重いかなーとか色々考えた結果、買ったチョコにしたんだ。
女子高生が1500円のチョコってすごくない?我ながら大奮発!真田くんへの大好きな想いがなきゃ絶対買えない!
…って、買ったときはテンションも上がって、絶対渡すぞーって意気込んでたんだけど、いざ当日になってみると怖気付いちゃって……
自転車置き場で真田くんと話してちょっとイイカンジかもー!って舞い上がったのはいつだったかな、もう何ヶ月も前のことだ。
あの時から何ひとつ変わってない。
まあまあ喋る方のクラスメイト。それだけ。
私って何でこんなに意気地なしなのかな。
あと一歩が踏み出せなくて、すぐ怖気づいて。自分が嫌すぎる。
何が嫌って、バレンタインは終わったっていうのにこうやって渡せなかったチョコレートを握りしめて未練がましく真田くんを見てるってことだ。
こんなことしたって何が起きる訳もないのに……
「ハァ………」
ああ、またため息。こんなんじゃ幸せ逃げちゃうよ。
………よし、今食べちゃおう、このチョコ。持ってたって仕方がない。
捨てるのはさすがに勿体無いもん。
食べ物に罪はないし、何よりこれ1500円だよ?
ガサガサと包みを開けて箱の蓋を外すと優しく微笑むクマさんと目が合う。
可愛いな……
うん、可愛いに決まってる。
可愛いやつを選んだんだもん。
クマさん、ゴメンね。
君は本当は真田くんに食べてもらうはずだったのに、こんな意気地なし女の口に入ることになっちゃって……
一粒つまんで口に放り込むと、トロリと溶けたチョコレートの甘さが口いっぱいに広がった。
うわぁ、美味しーい!さすが1500円……
真田くんに渡せなかったことが更に悔やまれる。
ああ、ダメダメ!今はチョコに集中!
はい次!次はハートにしよう!
ピンクのハート型のチョコをつまんだとき
「おい雷市ー!飛ばしすぎだぞー!」
「カハハハ!スマセン!」
「真田頼むー!」
「うーす!」
愛しの真田くんの声がして思わず手が止まる。
真田くんの姿を見るべく視線をやると私の近くにコロコロとボールが転がってきて、そのボールに向かって走ってくる真田くん。
わ、わ、わ、真田くんがこっちに来る!
私に気付く?気付くかな?気付くよね?
そもそも真田くんは私が練習を見に来てること知ってるもんね。
「お、名字さん!おーっす!」
「あ、お疲れ!」
「ここ居たら寒くね?」
「寒いけど平気だよ。真田くんは相変わらず頑張ってるね」
たまたまボールが飛んできたからとはいえ、真田くんと2人で話せるのは素直に嬉しい。
さっきまで落ち込んでたくせに、私ってなんて単純なんだろう。
「何かいーモン食ってんな?」
真田くんが私の手の中のチョコレートに視線を落とす。
そりゃ気になるよね。外で箱入りのチョコレート食べてるなんて不思議だもんね。
「えっと、バレンタインのときに自分用に買ったやつで」
とっさに嘘をつく。
だって、真田くんに渡しそびれたチョコです、なんて言えないもん。
「真田くんも、食べる?」
「お、いいの?」
「うん…!」
「あ、でもあれだ。今俺の手すげぇ泥ついてっから」
「そっか、どうしよう……」
「んー、じゃあさ、ネットから1個突っ込んで!そしたらそのまま口で貰うから」
「うん、オッケー!」
こ、これは……もしかして、もしかしなくても…?やばっ、やばくない!?おおお落ち着け、落ちつけ私…!
さっきからつまんでいたままだったピンクのハートチョコをネットの穴からグイ、と押し込む。
やばい、手が震える。
これしか方法がないとはいえ、真田くんにアーンをする日が来ようとは…!
「ん!んまい!」
口をもぐもぐさせながら嬉しそうに笑う真田くん。
うう、その無邪気な顔!キュンキュンするんですけど!
「じゃあ俺戻るわ!サンキューな!」
「あ、うん!練習頑張ってね!」
「ありがと!」
転がったボールを拾い上げて走っていく真田くんの背中を見つめていたら
「名字さん!」
「!?はいっ!」
急に振り返る真田くん。
「何でもない!チョコ!うまかった!ありがとう!」
「?うんっ!」
嬉しすぎて勝手にニヤけてくる顔を隠すために精一杯の笑顔を作ってぶんぶん手を振った。
これって、結果オーライってやつ?
気持ちは伝えられなかったけど、本命チョコを真田くんに食べてもらえた!
やばい、ニヤニヤが止まらないよ。
また明日から頑張れそう!頑張る!私、頑張るよー!