ウチとボク

□20話
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試合が終わってから、ウチは会場の入口であっちゃんを1人待っといた。



最後に会うたとき

『試合終わったら返事聞かせてほしい』

って言われたけど

“絶対勝つから”っていう前置きもあっただけに、正直来るんかどうかはわからん。


ちゃんとした約束をしてないから、どこで待ったら良いんかもわからんし…

だってウチ、あっちゃんのアドレスも何も知らんもん…


色々とゴチャゴチャ考えるものの、ここから立ち去る気にはなれんくて、ただただあっちゃんを待った。


次第に人もまばらになってきて、ただ立っとくだけってしんどいなあって思い始めたとき



「名前チャン!」



声の方を見ると、あっちゃんがこっちに駆け足で向かってきとって…


「あっちゃん…」

もう来んかもしれんってちょっと思い始めといたから、何や、めっちゃホッとした。



「ココにおったんや?」

「場所とか決めてへんかったから、一番わかりやすいかなと思って」

「ゴメンな、ボク、裏口の方におってん。そしたらファンの子に捕まってもうて……」

「ん、そっか」


あっちゃん、ファンとかおるんやな…

まあ、そらそうやろな。
優しいし格好良いもんな、バスケしとるときなんかキラキラしとるし。

そういえば今日も、“土屋くーん”って黄色い歓声が聞こえたような気がする。


「あっちゃん、試合お疲れさま」

「ありがとう」


「ボクな、この後打ち上げがあるからすぐに行かなアカンのよ、ゴメンな」

「エェよ、ウチも大阪帰らなアカンし」



「………ゴメンな、負けてもうた」

申し訳なさそうに謝るあっちゃんの目は、ちょっと赤くなっといた。


「ううん、凄かったよ。惜しかったなあ」

ホンマに、ホンマに凄かった。

結果は負けやったけど、

それでも、

それでもウチは……



「名前チャンにあんな大口叩いたのに、約束、守れんかったわ…」

「ホンマ、どーしようもないな、ボク」

「ゴメンな名前チャン、ボクな……」



「淳!」


「!?」



「何しょげてんの!」

「淳、メッチャ活躍してたやん!メッチャ格好良かったし!」

「今回は負けてもうたけど、次に何かの試合あったら、その時勝ったらエェやん!」

「ウジウジしといたら勝てるモンも勝てんよ!」



「名前チャン……」



………やってもうた。


気付いたときには、時すでに遅し。

あっちゃんの細い目が、ビックリして見開いてんのがわかる。


ホンマは、あっちゃんと会えたら、ちゃんと落ち着いて話すつもりやった。

離れとった分、ひとつひとつ大事にして、絶対失敗せんようにって…


でも

1回爆発したら、もう止まらんようになった。


試合に負けて落ち込んどる相手に急に説教かますなんか最悪やけど、

だって、あっちゃんがあまりにも悲しそうな顔するんやもん…

大事な人に、あんな悲しそうな顔させたくないって思ったから……



「おおきにな」

あっちゃんは、見開いてた目をまた細めて小さく笑った。


「ゴ、ゴメン!何か、エラそうに色々言うてもうて…」

「ううん全然、ホンマその通りやな」



「というか、さっき名前チャン、名前……」


「名前…?」


名前、、

名前、、、


うわ!

うわ!うわ!


ウチ、さっき思いっきり言うてもうた!『淳』って…


まだ何にも返事してへんのに、何にも……まだ……


いやほんまウチ何してんねん!


〜〜〜〜〜っ!


「だ、だって、、つ、付き合うとる2人は呼び捨てで呼び合うんちゃうん?」


ああ、もう、ヤケクソや…

顔も真っ赤やし、あっちゃんの顔もうまく見れん。


「それって、返事?」


あっちゃんがどんな顔して聞いたんかわからんけど

もう後戻りできなくて、ウンって頷いた。




頷いたまま下向いてたら、フワって、身体が包まれて……


一瞬頭が真っ白になったけど、あっちゃんに抱き締められたんやってわかると、ウチもあっちゃんの背中に腕をまわした。


「名前、メッチャ嬉しい、名前、名前、好きや……」


あっちゃんが、メッチャ大事そうにウチの名前を呼んで、

メッチャ大事なモンを扱うみたいに、優しく抱き締めてくれた。


「淳、あの頃より逞しくなって……違う人みたいや」

「ボクは変わらんよ」



「ずっと、名前が好きや」


「うん、、ウチも好き、淳が好き」




6年振りに、淳の腕に包まれた。


汗と、制汗剤の匂いがした。

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