ウチとボク

□19話
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11月


ウチはあっちゃんの試合を観に来た。



決勝戦なだけあって会場は物凄い盛り上がりで、試合の内容も競ったものだった。

相手のチームもメッチャ強くて、最後までどっちが勝つかわからんくて……



隣に座っとる女の子が一生懸命応援してて

何度も

『諸星くん頑張って!』

って言うとるのが聞こえた。


あと、

『土屋さん』

『三井さん』

って。


もしかしてこの子が大チャンのカノジョやったりして、なんて思った。

妹とか、友達とか、ファンとか、他にも色々選択肢はあるけど、何となく。



ウチは、あっちゃんのプレイをひたすら目で追った。

声は、出んかった。

黙ったまま、ただ、ただ、あっちゃんのことを、あっちゃんのプレイを見つめた。



真剣で、でも楽しそうなあっちゃんを見てたら

次第に涙が溢れてきて……


最初は手でぬぐってたけど、どうにもこうにもボロボロこぼれて止まらんようになってカバンを漁った。


うわ、ハンカチ忘れた…最悪やん…


しゃーないから次々に溢れ出る涙を手でぬぐいながら観てたら


「良かったら、使ってください」


ピンクの花柄のハンカチが目の前に差し出された。


隣に座っとる女の子が控えめに笑って


「私、2つ持ってるので」


女の子の目も真っ赤やった。


「どうも、すみません。ありがとう」


こんなグチャグチャの顔で恥ずかしいなあって思いながらも、ありがたく受け取った。


彼女のタオル地のハンカチを目元に当てたら、フワッて柔軟剤の香りがして

ちょっとだけ甘くて、なんや、この子にピッタリやなあって思った。




試合が終わって


「ハンカチ、ありがとうございます。ごめんなさい、汚してもうて……」

「いえ、全然大丈夫です」


ウサギみたいに目を赤くした彼女は、フワッと笑ってハンカチを受け取った。


「彼氏の応援に来たんですか?」


つい聞いてしまった。

さすがに“大チャンのカノジョですか?”とは聞かれへんけど。


「あっ、はぃ」

ポポッてほっぺたが赤くなって、恥ずかしそうに笑っとる。


はは、メッチャわかりやすい。

心が素直なんやなあ、可愛い。




ウチも、素直にならなアカンなあ。



自分自身でもな、わかっとる。



わかっとるんよ。


あっちゃんへの気持ちがなくなった訳やない。


行き場をなくしてどうしようもなくなった気持ちに長い間フタをしてただけや。


それを気づかんフリしといた。


気づいたら、辛くなるから。


受け止めてくれる人、おらんようになったから。


けど


それはウチだけやなかった。


あっちゃんも………



誰が悪いとかやない。

ウチも、あっちゃんも、あの子らも、、皆未熟やっただけ。



今度こそ、向き合わなアカン。


あっちゃんはウチと向き合おうとしてくれてる。



今度こそ、逃げへん。

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