◆Aroom

□GYUUUUUU
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ぎゅうううううう


幼馴染の哲ちゃんと付き合い始めたのは、高校の卒業式の日だった。

私は女子校に通っていて、卒業式が終わって帰ろうとしていたら、見慣れた男の人がひとり、校門に立っていて。

女子の群れの中に混ざる哲ちゃんは浮きに浮きまくっていて、私の姿を見つけるなり、私の腕をとって逃げ出すようにその場を去った。

今でもその時の哲ちゃんの何とも言えない表情は忘れられない。

本人いわく、『とって食われるんじゃないかと思うくらいの視線を感じた』だって。


いつも哲ちゃんが素振りをしている公園に着くやいなや、


『結婚を前提に付き合ってほしい』


突然すぎる展開と内容にちょっと笑っちゃったけど、哲ちゃんらしい告白ですごく嬉しかった。


ぎゅうううううう


哲ちゃんは昔から真面目で曲がったことが嫌いで一本気な性格。

何かひとつ決めたら、とことんやり抜く。

その性格のおかげで野球では努力して結果を出してるし、私はそんな哲ちゃんが大好き。

ただね、こう、一本気すぎるというか…

ちょっとだけ、ちょっとだけだよ?


ちょーっとだけ、しつこいところがあるんだよね。(哲ちゃん、ゴメン)


ぎゅうううううう


哲ちゃんは大学の寮に住んでいて、相変わらずの野球漬けの毎日。

でも週末は必ず会いに帰ってきてくれる。

どんなにキツイ練習の後でも、試合があっても、必ず。


以前一度だけ、哲ちゃんがしんどいんじゃないかと思って私が会いに行ったら、野球部の面々に冷やかされまくってえらい目にあった。

哲ちゃんは『名前を皆に紹介できて良かった』ってご満悦だったけど、私は野球部さんの絡みが凄すぎて、なかなか会いに行けない。


ぎゅうううううう


で、今日がその週末。

哲ちゃんが会いに来てくれて、数時間だけ私の部屋で一緒に過ごす。

すっごく、すっごく幸せな時間。


ぎゅうううううう。

ぎゅうううううう。

ぎゅうううううう。


あ、さっきから気になるよね?この“ぎゅうううううう”ってやつ。

これはね、

哲ちゃんが私を抱き締めてる音。

いや、実際に音はしないんだけど。
でも本当に音がしそうなくらいギュウギュウに抱き締めるんだ、哲ちゃんは。


もうかれこれ30分くらいは経つかな。

毎週恒例とはいえ、哲ちゃんの集中力は凄い。あっぱれ。


口下手な哲ちゃんなりに、私に愛情を示してくれているらしい。

哲ちゃんらしくて微笑ましい。好き。


…でもね、毎回思うんだけど、、ちょーっと長いよね?


「哲ちゃん、くるしぃよ?」

「………嫌か?」

「ううん、ヤじゃない」


嫌じゃない、全然。すっごく嬉しいよ。
哲ちゃんのたくましい腕に包まれて、私幸せすぎて死んじゃうかも。

ただ、顔を見てお話したりもしたいじゃない?って思ってるだけ。


「また週末まで会えないからな。1週間分だ」

ぎゅうううううう。


ああ、私の負けだ。

私が好きになった人は、こういう人だもんね。


これからもいっぱいギュウってしようね、哲ちゃん。

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