◆Aroom
□GYUUUUUU
1ページ/1ページ
ぎゅうううううう
幼馴染の哲ちゃんと付き合い始めたのは、高校の卒業式の日だった。
私は女子校に通っていて、卒業式が終わって帰ろうとしていたら、見慣れた男の人がひとり、校門に立っていて。
女子の群れの中に混ざる哲ちゃんは浮きに浮きまくっていて、私の姿を見つけるなり、私の腕をとって逃げ出すようにその場を去った。
今でもその時の哲ちゃんの何とも言えない表情は忘れられない。
本人いわく、『とって食われるんじゃないかと思うくらいの視線を感じた』だって。
いつも哲ちゃんが素振りをしている公園に着くやいなや、
『結婚を前提に付き合ってほしい』
突然すぎる展開と内容にちょっと笑っちゃったけど、哲ちゃんらしい告白ですごく嬉しかった。
ぎゅうううううう
哲ちゃんは昔から真面目で曲がったことが嫌いで一本気な性格。
何かひとつ決めたら、とことんやり抜く。
その性格のおかげで野球では努力して結果を出してるし、私はそんな哲ちゃんが大好き。
ただね、こう、一本気すぎるというか…
ちょっとだけ、ちょっとだけだよ?
ちょーっとだけ、しつこいところがあるんだよね。(哲ちゃん、ゴメン)
ぎゅうううううう
哲ちゃんは大学の寮に住んでいて、相変わらずの野球漬けの毎日。
でも週末は必ず会いに帰ってきてくれる。
どんなにキツイ練習の後でも、試合があっても、必ず。
以前一度だけ、哲ちゃんがしんどいんじゃないかと思って私が会いに行ったら、野球部の面々に冷やかされまくってえらい目にあった。
哲ちゃんは『名前を皆に紹介できて良かった』ってご満悦だったけど、私は野球部さんの絡みが凄すぎて、なかなか会いに行けない。
ぎゅうううううう
で、今日がその週末。
哲ちゃんが会いに来てくれて、数時間だけ私の部屋で一緒に過ごす。
すっごく、すっごく幸せな時間。
ぎゅうううううう。
ぎゅうううううう。
ぎゅうううううう。
あ、さっきから気になるよね?この“ぎゅうううううう”ってやつ。
これはね、
哲ちゃんが私を抱き締めてる音。
いや、実際に音はしないんだけど。
でも本当に音がしそうなくらいギュウギュウに抱き締めるんだ、哲ちゃんは。
もうかれこれ30分くらいは経つかな。
毎週恒例とはいえ、哲ちゃんの集中力は凄い。あっぱれ。
口下手な哲ちゃんなりに、私に愛情を示してくれているらしい。
哲ちゃんらしくて微笑ましい。好き。
…でもね、毎回思うんだけど、、ちょーっと長いよね?
「哲ちゃん、くるしぃよ?」
「………嫌か?」
「ううん、ヤじゃない」
嫌じゃない、全然。すっごく嬉しいよ。
哲ちゃんのたくましい腕に包まれて、私幸せすぎて死んじゃうかも。
ただ、顔を見てお話したりもしたいじゃない?って思ってるだけ。
「また週末まで会えないからな。1週間分だ」
ぎゅうううううう。
ああ、私の負けだ。
私が好きになった人は、こういう人だもんね。
これからもいっぱいギュウってしようね、哲ちゃん。