◆Aroom

□スマイル!
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「洋ちゃん、おめでとう!」


秋大で勝つたびに満面の笑みで祝福してくれる名前。


でも、その笑顔の裏で複雑な気持ちを抱えてるのを、俺は知ってる。



それは…秋大を勝ち進んでいる野球部は、修学旅行に行けない。

イコール、名前と修学旅行の思い出がつくれない。



青道に来て野球に全部捧げるって決めてる俺は、修学旅行に行けなくても仕方ないって思える。

ただ、少し前に門田先輩から言われた一言が頭をよぎっているのは事実で。


“修学旅行に行けなかったら彼女と思い出が共有できなくて距離ができる”


全部を真に受けているわけじゃない。

でもやっぱり、一緒に思い出が作りたいって思うのが普通だよな。

名前も、もちろん俺だってそうだ。


アイツ、絶対我慢してるよな。

我慢してんのに、その気持ちを隠して笑ってる。

そういうの、ちゃんと言えよな、バカ。


でも、言われたからといって俺に何かができる訳じゃないってことが余計に俺を苛立たせる。


……ああ、もう、クソッタレ!
黙ってウジウジ考えるのは俺の性に合わねぇんだよ!





「修学旅行、一緒に行けなくてゴメンな」


部活が終わって、見学をしていた名前を家まで送る途中、俺は心の中に閉まっていたモヤモヤをこぼした。



「何で謝るの?」

「いや、だってよ……」


謝る理由は正直俺にもわかんねぇ。

けど、名前に寂しい思いさせてんだ。謝るしかねぇだろ…



「修学旅行に行けないのは、洋ちゃんが試合に勝てたからだもん。嬉しいことだから、、私は平気だよ?」


ほら、そうやって無理に笑うだろ?

俺はそういうの何でか気付いちまうんだよ。

そんでもって、それを黙って見過ごすなんてできねぇ。



「…そうやって言ってくれんのはすげえ嬉しい。でも、俺は名前に我慢してほしくねぇの!」

「俺にしてやれることはないかもしんねーけど、でも、言え!腹ん中に溜めてること全部!」



名前はビックリしたように目を見開いてから、

「……怒んない?」

「怒んねえよ!」

俺、名前の中でどんなイメージなんだよ。

怒んねえよ!……多分。




「……洋ちゃんと、修学旅行、、行きたかった、です…」



「悪ぃ……」

やっぱり、そうか。……だよな。

遠慮がちに発した名前に、結局俺は謝ることしかできなくて。

言わせるだけ言わせといて、気の利いた言葉のひとつもかけてやれねぇ。ダセーな、俺。



「私、洋ちゃんの分まで楽しんでくるからね!写メもいっぱい送るから!お土産も買ってくるから!」

「だから、洋ちゃんは野球頑張ってね!」

さっきまで気まずそうにうつむいてたのに、もう笑って俺を見上げてる。


「おぅ、楽しみにしてる」

名前につられて俺も笑う。


やっぱり、女ってつえーな。
母ちゃんしかり、名前しかり。

本当、敵わねぇわ。




そして来たる修学旅行当日…

名前は北海道へ、俺は相変わらずの野球漬け。




『北海道でっかいど〜〜〜!』

空港であろう場所で撮られた友達とのツーショット写メが送られてきた。

全開の笑顔に思わず口元が緩む。

ヒャハ!浮かれすぎだろ!
つーかその写メじゃ北海道のデカさわかんねぇよ!



『カニ!カニ!おいしーい!』

カニ刺にかぶりつく名前。

こ、これはさすがに羨ましい…

この写メをおかずに今日はメシ食おう。

…何かおかずとか言うとヤラシーけど、断じて違う。純粋にメシのおかずだ!



もちろん俺からのメールも欠かさない。

『今日はサッカーした。御幸がヘタクソすぎて笑えた』…っと。

「誰がヘタクソだって?」


「っどぅわ!!!」

驚いて振り向くと、俺の携帯を覗き込む御幸が居て。


「テメェ覗き見してんじゃねぇぞ!」

「名字さん、楽しんでるって?」

「おぉ」

「お前居なくても平気みたいだな」

「黙れ性格ねじ曲がり野郎!絞めるぞコラァ!」



このひねくれ者は放っておくとしてだな、、

よく言う、“会えない時間が愛を育む”ってヤツ、あながち間違いじゃねー気がする。

門田先輩、俺は逆に、距離縮まりましたよ。




名前からのお土産には、白い恋人とおそろいのストラップ。

俺からのお返しはまだ返せねーけど、もう決まってる。


秋大優勝。


名前に寂しい思いさせた分も、監督を辞めさせねぇ為にも、絶対結果を出してみせる。


ぜってーぜってー優勝するからな!

見てろよ!

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