◆Aroom

□(∞+∞)× kiss=?
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「おはよう。あれ、名前今日メガネ?」


朝、教室で友達と話していたら、朝練を終えた一也が私の元にやってくる。



「おはよう一也。うん、コンタクトの調子悪くてさ」

「へぇ」


興味があるのかないのか微妙な反応をして、“じゃあまた昼な”って自分のクラスに戻っていく。


「相変わらずだね〜御幸くん」

一也が居なくなってから友達が笑いながら言う。


そう。相変わらず。

良く言えばクール。
悪く言えば無関心。

けど、一也にとってはあれが普通。

むしろ、野球馬鹿の一也がわざわざ会いに来てくれることは、喜ぶべきことなんだ。

私達はクラスが違うし、一也は部活が忙しい、しかも寮に住んでる。

だからなかなか一緒には居られない。


『朝、名前の顔見たら1日頑張れるんだ』

なんて一也が言ってることを友達や周りが知ったらビックリするだろうな。


でもね、実はすごく優しくて甘えん坊だってこと、私だけが知ってれば良いんだ。




昼休み、屋上で一緒にお昼を食べる。


「相変わらずよく食べるね〜」

「寮ではもっと食べるぜ?」

私が作ったお弁当と、購買で買ったパンをペロリと平らげる一也に毎日感心する。

さすがスポーツマン。
これで昔はチビだったって言うから驚きだ。




「御幸一也ぁぁぁ!!!」


あ、来た。


「はぁ、来たか…」
「来たね」

バァン!と勢いよく屋上のドアが開いて、同時に一也の名前を呼ぶ叫び声。


「俺の球を受けろぉぉぉ!!!」


このよく通る声の主は、1年生の沢村くん。一也の野球部の後輩だ。

毎日こうやってやって来ては、一也に自分の球を受けて欲しいと頼んでいる。

まあ、人にモノを頼む態度ではない気がするけど、私にはとっても礼儀正しくて良い子。


「沢村お前…毎日毎日、、空気読めよな」

「性格悪すぎて友達居ねーんだから良いだ、ろ……あれ!?」


私の方をチラリと見た沢村くんは

「みみみ御幸一也!名前サンという人が居ながら!こんな眼鏡美女と.…!」

今にも殴りかかりそうな勢いで一也に詰め寄る。

どうやら沢村くんは、眼鏡をかけている私を、私だと認識していないらしい。


「お前の目は節穴か」

呆れたように一也が言うと、もう一度私をまじまじと見て

「…ハッッ!そういえば眼鏡の奥の瞳が紛れもなく名前サン…!」

「ふふっ、今日は眼鏡なんだぁ」

「ススススンマセン!!!」

ブンって音がしそうなくらいのスピードで直角に頭を下げる沢村くん。

本当、素直で可愛い。


いつも一生懸命だからついつい応援したくなって、一也に『受けてあげれば?』って沢村くんの手助けをしてしまう。

そしたら私に甘い一也は『しょうがねぇな…』って重い腰を上げて、2人の時間はおしまい。

これが毎日のパターン。


なんだけど、今日は違った。


「沢村、今日はパスな。明日は受けてやるから」

「!!!」

ショック丸出しな顔になってる沢村くんを置いて、一也は私の腕を掴んで屋上を出た。



「良いの?沢村くん」

「たまには良いよ、毎日付き合ってんだから」

「ていうか一也、どこ行くの?」

「ん?寮」

「バレたら怒られるんじゃないの?」

「バレなきゃ良いだろ」

「もう…」


何度か内緒で入ったことがある一也の部屋。

ベッドの上に部屋着が脱ぎ捨ててあるけど、男の子の部屋にしては綺麗にしてある方なんじゃないかと思う。


一也は散らばった部屋着を椅子の背もたれにかけてからベッドに座ると、“名前も座って”と隣のスペースをポンポンと叩く。

隣に座ると、一也が私の肩にもたれかかってくる。


あ、甘えモードの一也だ、ってすぐに分かった。

この甘えモード、いつやってくるかはわからない。
とはいえ、良いカッコしぃの一也は人前じゃ絶対こういうことしないんだけど。


「眼鏡、良いな。何か新鮮」

「ふふ、それ朝言えば良かったじゃん」

「ヤダ、恥ずい」

「また格好つけて」

「照れ屋なんだよ」

「どの口が言ってんの?」


「ん?この口」



肩にもたれていた一也の顔が、私の目の前にくる。

少しずつ近づいてきて……



カチャ


唇が触れ合う前に、眼鏡と眼鏡がぶつかる。


「っ、ふふ、眼鏡、当たっちゃったね」


“外すね”って眼鏡に手をかけると、その腕を掴まれた。

「ダメ、名前はつけてて。俺が外すから」


滅多に見れない裸眼の一也。

普段は黒縁の眼鏡だし、野球のときはコンタクトにスポーツ用のサングラスをかけてる。

たまに見られる素顔の一也が、私はたまらなく好きなんだ。


眼鏡を外した一也がもう一度私に近づいて、甘いキスを落とす。



「一也、私の前以外でメガネ取ったらダメだよ?」

「野球のときは?」

「あれは良いの。もう、わかってるクセに…」

本当に良い性格してる。
だから友達少ないんだよ、ばかずや。

「ははっ、りょーかい」


一也は口角を上げてニッ笑うと、私の眼鏡にチョンと触れてから、優しくキスをした。


野球に打ち込む一也も、素っ気ない一也も、甘えん坊の一也も、みんなみんな、大好きだよ。

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