[続]初恋cherry.(1〜77)

□32話
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咲季の腕を掴んだまま、無言で俺の家に向かう。


実家に行くのは正月振りだ。

でも平日の昼間だから誰も居ないはず。


家に着くと庭先でショウが吠える。

久しぶりに会うし、いつもなら声を掛けたり少し遊んでから家に入るけど、とてもじゃないけどそんな余裕はなくて。

ショウは咲季にもすげえ懐いてるから少し可哀想な気もしたけど、もうそれどこじゃない。


玄関で靴を揃えることもなく脱ぎ散らかして俺の部屋まで咲季の腕を引く。


勢い良く部屋のドアを閉めてから、咲季と向き合う。



「南に、何かされた?」

これが気になって気になって仕方がなかった。

俺が見てないところで何かされたんじゃないかって思うと………



「何も、されてないよ」

咲季は首をブンブン横に振って答える。


「ほんとに?」

「うん……手、掴まれたくらいで…」


咲季がそう言った瞬間、さっき南が咲季の手を掴んで顔を覗き込んでいた姿が思い出されて……

頭がカッと熱くなって、無意識に咲季の腕を掴む力が強くなった。


「諸星くん…痛い、よ」

咲季が今にも泣きそうな顔で俺を見る。


「っ、ごめん!」


慌てて手を離して、思わず咲季を抱き締めた。



「ついカッとなって……ごめんな?」


「俺さ、咲季のこと信じてたけど、もう居ても立ってもいられなくなって、朝、気付いたら新幹線乗ってたんだ」

「南にすげえ嫉妬して、咲季は俺のモンなのに何でだよって腹立って……今日、咲季と南を2人にしたくなかったから…」

「ごめん、腕、痛かったよな?」

抱き締める腕を解いて、少し赤く腫れた咲季の腕をさする。


「ううん、大丈夫。私こそ、心配かけてごめんなさい」

「私、諸星くんのことすごく怒らせちゃったんじゃないかって、私のこと嫌いになっちゃったんじゃないかって思っ……ごめ、涙が…ごめんね、っ」


咲季の目から、ぼろぼろ、ぼろぼろ、涙が溢れ出す。


こんな風に泣かせたのは俺のせいだ……

咲季は何も悪くない。

咲季は南にきちんと断ってたのに、俺はガキみたいに嫉妬して……大事な子泣かせて、何やってんだよ。


「嫌いになるわけないだろ?東京から飛んでくるくらい好きなんだから…」


咲季の顔を覗き込んで、親指で涙を拭ってやる。



それからしばらくの間、少しの隙間もないくらいに咲季のことを抱き締めて、数え切れないくらいキスをした。


あと

『好きだよ』

って。

何度も、何度も伝えた。



本当は今日1日ずっと咲季と一緒に居たかったけど、大学はサボっても部活には出ないとヤバイから……後ろ髪引かれながらも新幹線に乗って東京へ帰った。



何で大学に来てなかったのか三井と土屋に聞かれて渋々答えたら

“少女漫画のヒーローか”って爆笑されたけど……


咲季は咲季で、俺が大学中を探し回ってたのを友達に目撃されていたらしく散々質問責めにあったらしいけど……


南も完全に咲季を諦めた訳じゃなさそうだけど……



大丈夫。

何を言われてもどんなことがあっても、絶対に手放さないから。

咲季、これからも俺のことよろしくな?

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