初恋cherry.(1〜32)

□8話
1ページ/1ページ

夏休みに入るまで、諸星くんの練習は見に行かなかった。

ううん、行けなかった。



それから夏休みに入って、ユッちゃんと夏祭りに行ったり買い物に行ったり課題に追われたりしていたらあっという間に夏休みの後半になってしまった。


諸星くんの姿は夏休みの間一度も見ていない。

でも、フラれてもまだ好きな気持ちは全然変わらなくて。

友達になろうって言ってくれたのに、恋愛対象として諸星くんを見てしまう私は未練たらしいのかな。



今日は夏休み中だけど学校に来ている。

夏休み明けに行われる愛和祭の準備があるから。


愛和学院は大学進学する人が多いから秋になると受験モードに入る為、9月に体育祭と文化祭が2日連続で行われる。

私は指定校推薦狙いだから、定期考査を落とさなければ大丈夫なんだけど。



クラスの応援旗に色塗りをしたり看板を作ったり、実行委員の指示に従って動く。


「咲季、悪いんだけど美術室からハケ貸して貰ってきてくれない?」


「うん、行ってくるよ!」


実行委員の子に頼まれて美術室へ向かう。


高校最後の夏休みももう終わりかあ〜なんて思いながら歩いていたら、後ろから声をかけられた。


「…川瀬さん?」


声の方を向くと、そこには諸星くん。


「も、諸星くん…」

胸が、高鳴る。

…やっぱり諸星くんが好きだって、この鼓動が再確認させる。


「あーやっぱり川瀬さんだ。髪型違うからちょっと声かけるの緊張した!久しぶり」


久しぶりに見る諸星くんは、少し日焼けして、やっぱり格好良い。

「ひ、久しぶり。今日は愛和祭の準備で来てて、髪の毛邪魔だったから結んでて…」

「俺もさ、部活の合間に準備の顔出しに来たんだ」


「あっ、インターハイ、お疲れ様でした」

「うん。今年もベスト4だった。優勝できなくてすげえ悔しいけど、やり切ったよ」

諸星くんはスッキリした表情で笑った。

「全国でベスト4なんて凄いと思う!おめでとう!諸星くん、バスケは続けるの?」

「ありがとう。秋に国体があるからそれに出たら引退かな。冬も大会あるんだけど、愛和は2年が出るって毎年決まってるから。でも大学でもバスケ続けるから練習には顔出すつもり」

「そっか、バスケ、大好きなんだね」

「そーなんだよなあ。まだやるかって感じだよ」


照れくさそうに笑う諸星くんを見て、何だか可愛いと思ってしまった。



「そういえばさ、川瀬さんのクラスは文化祭何やんの?」

「うちのクラスは、手羽先の唐揚げのお店するんだ。私、調理係になっちゃって、今からプレッシャーで…」

「へえ〜じゃあ食べに行かないとなあ、川瀬さんの手羽先。期待しとくよ」

意地悪そうに笑う諸星くん。

そんな表情も素敵だって感じてしまう私は重症だと思う。


「えっ、期待、しないでね?諸星くんのクラスは?」

「俺のクラスは喫茶店。でさぁ……いや、何でもないや」

「???」

一瞬顔をしかめたような気がしたけど、濁されてしまった。


「あ、用事の途中だったんだよな?引き止めてごめん」

「っ、ううん!全然大丈夫!」

「俺も部活戻らなきゃ、じゃね、川瀬さん」

「うん」



また美術室の方へ向かおうとしていたら


「川瀬さん!」

諸星くんに名前を呼ばれた。

私が振り向くと


「髪の毛!似合ってる!そんだけ!」


ニカっと笑って

走って行ってしまった。




固まる私をよそに、心臓はありえないスピードで音をたてている。

諸星くん、好きです。

やっぱり、大好きなんです。



その後美術室から戻ってきた私は、正直使い物にならなかったと思う。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ