初恋cherry.(1〜32)

□3話
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「あっはっはっは!」

教室にユッちゃんの笑い声が響く。

「ユッちゃん笑いすぎだよぉ〜」

「あーっはっは!だって!だってさあ!体育館見に来たって!しかも異常なしって!咲季、業者?ひー苦しいぃ」


笑いすぎて涙目になりながら机をドンドン叩いている。

昨日の出来事を報告したら、この有り様で。


でも笑われるのも仕方ないと思う。
片想いしてる相手に初めて話しかけられて、やっと返した言葉が『体育館見に来た』『異常なし』って……パニックだったとはいえ、もうちょっとマシな受け答えがあったと思う。

諸星くん、私のこと変な人って思っただろうな。

私のこと知ってほしいってずっと思ってたけど、昨日のことは忘れてほしい。

もうひたすら後悔だよ。



昼休みになってユッちゃんと学食へ向かう。

いつもは自分でお弁当を作って持って来てるけど、昨日はモヤモヤしてあんまり寝られなくて…朝寝坊してしまったからお弁当が作れなかった。

学食の入り口が見えたと同時に、見覚えのある姿が目に入った。


諸星くんだ…諸星くんがいる。


学食の入り口の隣にある自販機で、友達数人とジュースを買っていた。

いつもなら飛び上がるほど嬉しいけど、今日だけは素直に喜べない。昨日のことを思い出すから。


ユッちゃんも諸星くんに気付いたみたいで、肘で私をつついた。

「咲季の王子様いるじゃん!」

「……うん。ラッキーなようなそうじゃないような…」

「ぶはっ!体育館業者!」

「もー言わないでよぉ〜」


心臓がうるさいくらい音をたてている。
諸星くんの横を通ったら、聞こえてしまうんじゃないかっていうくらい。

なるべくいつも通りの表情で自販機にいる諸星くんの横を通り過ぎようとしたそのとき、


ドンっ


「きゃっ」
「おっと」


身体に衝撃が走って、私はよろけて尻餅をついてしまった。

「咲季!大丈夫?」


いてて…何かにぶつかった?

「ごめん!大丈夫?…あ!」


顔を見上げると、諸星くんが私に手を差し出していた。

どうやら諸星くんが振り向いた瞬間に私とぶつかってしまったらしい。

諸星くんの顔を見つめたまま呆然としていると


「ごめん、全然周り見てなかった。立てる?」


諸星くんが腕を掴んで立たせてくれた。


「怪我とか、ない?」

「は、はいっ!大丈夫ですっ!」

そう答えるのが精一杯だった。

「昨日の子、だよね?今日は行かないの?体育館見学」

くっくっくと笑いをかみ殺すように口を押さえている。


昨日のこと覚えてたんだ…
複雑すぎる…


「あのっ!あれはっ!」

どうにか誤解を解こうと口を開いたとき、

「諸星〜〜行くぞ〜」

諸星くんの友達が彼を呼んだ。

「おー、今行く!じゃ、本当にごめんな。またね、体育館さん」

諸星くんは行ってしまった。


今おきた出来事が信じられなくて、瞬きも忘れて彼の後ろ姿を見つめていると

「咲季っ!」

「わっ!」

ユッちゃんが興奮気味に飛びついてきた。


「ちょっと、すごいじゃん!こんな少女漫画みたいなこと本当に起こるんだねえ!?」


「う、うん。ビッ、クリした」


「しかも咲季のことちゃんと覚えてたし!体育館さんってのは笑えたけど!」


「…ユッちゃん、これって、、進歩?」


「進歩進歩!大進歩!諸星くん、またねって言ってたし!何か咲季の恋に光が見えた気がしたわ〜」


「光…」


その後食堂で食べたうどんの味は、よく覚えていない。

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