Heresy Doll

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御所に討ち入ろうとして幕府の逆賊となった長州

あの事件は、禁門の変と呼ばれるようになった



元治元年 8月




『・・・・・・暑い・・・溶ける・・・』

「・・・・・・暑いですね・・・」


ふと隣を見ると、そんな素振りを微塵も見せない斎藤さんが歩いている

・・・・・・どうしてそんな涼しげに歩けるんだ

つか、真っ黒だし、一番暑がってもいいような恰好だろ


恨めしそうに見ていると、それに気づいた斎藤さんは私を横目で見た


「・・・・・・長年住んでいれば、慣れてくるものだ」

『・・・へーへー、そうですか』

「・・・はあ」


溜め息をついてまた前を向く斎藤さん

今日は千鶴も巡察についてきていて、父親である綱道さんを探している


道脇を見ると、座り込んでいる人が多く目に付いた

千鶴はその人たちを見つめると、斎藤さんに声を掛ける


「どうした?歩き疲れたか」

「いえ、そうじゃないんですけど・・・・・・。

あそこにいる人達に、話を聞いてきてもいいですか?」


もしかしたら、父様のことをご存知かもしれませんから、と千鶴が言うと、

斎藤さんは難しい顔で考え込む


『・・・少しだったら、大丈夫じゃないですか?』

「・・・・・・そうだな、・・・ただあまり時間は割いてやれぬ。それでも良ければ、だが」


その言葉に目を輝かせ、千鶴はお礼を言って走って行った

・・・なんか、犬みたいだよな

そう思いながら、先ほど思ったことを斎藤さんに伝える


『・・・・・・斎藤さんって、千鶴に甘いですよね』

「・・・なっ・・・、そ、そのようなことはない」

『ほら、どもったところがまた怪しい』

「・・・・・・っ・・・ただ、倒れられても迷惑なだけだ」

『ふーん・・・・・・』


膨れたフリをすると、斎藤さんは少し慌てた

・・・・・・なんだろう、すっごい楽しい←

と、からかいはここまでにして、千鶴が戻ってくるのを大人しく待つことにした



それにしても、暑い

じっとしていると、汗が内側から噴出してくるような感覚に陥る



「・・・あんたも、大丈夫なのか?」

『・・・・・・・・・・・・暑いです、すっごく。・・・暑いの、平気なんですか?さっきも慣れたって言ってましたけど』

「暑さ自体は、耐えられぬほどではない。・・・ただ、」



そこで言葉を止めた斎藤さんは、自分の刀に手をかけた


「・・・京の夏は湿気が多く、気を抜くと刀がさびてしまう

早く秋になってくれぬものか・・・・・・」


と、刀を一撫でする

刀は、自分を守る大切な牙だしね

そんなことを考えて、軽く微笑むと、斎藤さんは建物の前でふと足を止める


視線の先にあるのは、・・・・・・刀剣店

その視線は、まるで玩具を見つけた子供のように生き生きしている


『・・・・・・斎藤さん?』


呼びかけるとはっと我に返った様子で顔を上げる


「・・・すまない、今は巡察中だったな。急いで屯所に戻らねば・・・・・・」


さっと身を翻し、隊列に戻る

千鶴も後ろについたのを確認して、歩き出す


『・・・・・・いい刀でもあったんですか?』

「・・・・・・備前長船兼光、【刀といえば備前刀、備前刀といえば長船】という言葉もあるほど、

備前には優秀な刀工が多い。今日、現存する刀は、備前刀が一番多いといわれていて・・・」



いつにも増して斎藤さんが饒舌で、思わず笑ってしまった

それに気づき訝しげな顔をして、何か今の講釈に間違いがあったか?と聞いてくる始末

らしくないその光景に今度こそ口に出して笑ってしまう私



『・・・はははっ・・・!・・・いや、どこもおかしくないって言うか、

私、刀のことに詳しくないですし・・・っ・・・』

「では何故笑っていたのだ?」

『や、いつにも増して、よく話すなあ・・・って思って』

「・・・・・・・・・」

『そんな怖い顔しないでくださいって

・・・・・・でも、刀にひきつけられるのは、わかる気がします

私はあまり使ったりしませんけど、能力を使わないときはこれ使いますから

・・・・・・自分の牙は、誰だって大切です』

「・・・・・お前も、その刀に惹かれているということか」



ならばその刀も、必ずお前の思いに応えてくれる、と微笑んで言われる


「・・・・・・さて、急いで屯所に戻らねばな。思った以上に時間がかかってしまった」

『ですね!・・・さー帰って涼むぞー・・・』

「・・・あんたはそればかりだな」


ふっと呆れたように苦笑した斎藤さんは、何かを思い出したように足を止める

そして罰が悪そうに目を伏せて、口を開いた


「・・・神崎。今、俺が刀に見とれて時間を無駄にしたことは・・・・・・」

『土方さんに告げ口したりはしませんよ、・・・・・・土方さんには』

「!!!神崎!」

『・・・冗談ですよ、いいません!』


そういうとほっとしたような表情から、拗ねたような顔になる

・・・・・・そんな子供のような斎藤さんに、また一つ笑みをこぼした













無邪気グラフィティ


(暑さの中の、)(楽しい仕事)

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