Heresy Doll

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追っ手から逃げられた点はよしとしよう

が、この状況は一体なんだ?


辺りを見回すと、今まで文献などでしか見たことのない風景が広がっている

日本は昔、木造の家に住んでいた、という文書が残っていたが、

実際に見たのは初めてだった


『・・・・・・・・・この風景・・・・・・やっぱり転送装置は完成していたのか、』


今考えれば、あの強い光は恐らく装置の作動したもの

空間移動と共鳴したのか定かではないが、きっとそれも影響している


と、考えをめぐらせていると、一抹の悲鳴が聞こえた

距離はそう遠くないだろう



『・・・・・・調べる価値はあるかな・・・』



思い立ったが吉日、と急いで悲鳴の方へ向かう

先ほどまで疲労で空間移動がうまくいかなかったはずなのに、

ここに転送されてから体力が回復したように能力が使えた

まだ何かもごもごと聞こえる声を元に屋根に到着する



下にいるのは浅葱色の服を着て、白髪の人間が3人

そのほかに男の死体、刀を持った人間とうずくまって隠れている男の子がいた

すぐに刀の男は浅葱色の服の男に斬られ、倒れる



「・・・ひ、ひひひ・・・・・・っ血いいい!」

「血、・・・血をくれエエエ!」


『・・・・・・狂ってる』


男たちはまだ男の子に気が付いていないようで、

倒れた男たちをずたずたに斬りつけている


その様子を見ている男の子は、逃げようとした瞬間に音を立ててしまった

仕方ない、と思った私は、鉄針に手をかけて一人の男に転送する



ヒュ、という風を斬る音と共に男の腕に刺さり、視線をそらすことに成功した

ついでに脈に刺したはずだからそのうち死ぬだろう

しかし、事態は思わぬ方向へと進む



「・・・ひひひっ・・・ひゃああははははははっ!」

「血だ、血だあああ!」

「ヒャハハハハハハハッ」


『・・・なっ・・・死なない・・・!』


確かに脈を刺したはず、と思っていると、

男の子目掛けて、男が刀を振り上げているのが見えた



『・・・くっそ・・・心臓しかないっ・・・』


屋根から自身を移動させ、男の子と男の前に出る


「・・・っ!?」

『ちょーっと痛いかも・・・よっ』


ヒュッという音と共に男の停止した体

どうやら殺すことに成功したらしい


「・・・ひひっ・・・ヒャハハハッ!」

『・・・懲りないやつらだね・・・死んじまいな』


残りの二人に針を転送し、倒れたのを確認して振り返る

顔を見ると、男の子だと思っていたのはどうやら少女だったらしい


『・・・大丈夫、・・・じゃないよね』

「・・・・・・あ、・・・あ、あの・・・っ・・・・・・」

『うん、もういないよ』

「・・・はい・・・っはい・・・」



目線をあわせてしゃがむと、少女は安心したのか

ぼろぼろと泣き出してしまう

そこにじゃり、という足音が聞こえ、すぐに振り返った



「・・・あーあ、僕一人で始末しちゃうつもりだったのに・・・君、仕事速いね」

『・・・・・・残せば斬られていたんですけど』

「斬られちゃえばよかったんだよ、見ちゃったわけだしね」

「総司、それは俺たちの判断ではない」



飄々とした男と、寡黙な男

二人の人間は先ほどの白髪の輩と同じ服を羽織っている

仲間なのかはわからないが、やつらより強いことは明白だった

そして二人の間を抜け、私たちの前へやってきた男は

自身の刃を私たちに向けた



「・・・・・・運のないやつらだ」


途端、月を隠していた雲が晴れ、月夜に照らされた長髪の男が現れる

男は刀の先を向けて、冷たい表情で言った



「いいか、逃げるなよ、・・・・・・背を向ければ斬る」


その姿は、今まで見てきた何よりも美しく、気高く見えた

















メサイアの憂鬱


(この世界は、)(必然か)

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