塵も積もればなんとやら

□ 『A baited cat may grow as fierce as a lion.』
1ページ/1ページ


「つまりだね、この国に民間軍を止めるための不死身の兵器、それが君なんだよ。」

目の前が真っ暗になって、それから真っ青に開けたような気がした。


『A baited cat may grow as fierce as a lion.』




どこの国かもわからない。
ただ、そこで彼女らが生きていたことだけが鮮明だ。


ホワイト・リリーと呼ばれるその部隊は真っ白な胸につけた花を真っ赤に染めるまで帰還を許されていなかった。
見事血染めの花と共に生還したものはブラッディ・リリーと呼ばれ、また戦場へと送られた。
ホワイト・リリーと言っても編成は男性が主で、『M-22』と呼ばれた少女はたった一人の女性だった。
「M-22、ご苦労だった。お前のおかげで部隊はまた功績を上げることができた。」
「そうっすか。」
そう言って少女は血がこびりついたブロンドを後ろに流し、煙草に火をつける。
勝利には全く興味がないようだ。
その様子だけを見ると16歳の少女にはさらさら見えない。
「早速だが、また戦場に向ってもらおうと思っている。替えの花だ。」
彼女は『大佐』と呼ばれるその男が好色な目を向けて自分の胸元に花をつけようとするのが嫌いだった。
素早く煙草を口に加え、
「大佐のお手を煩わせるほどのことじゃありません。」
と笑顔を貼り付けて花を受け取った。
不服そうに顔を顰めた彼だったが、すぐに他の部下の元へと足を向ける。
彼が行ってしまったのを見届けると鼻を鳴らして「エロじじいが。」と悪態をついた。
そもそも少女はこのおかしな制度がまるで理解できない。
白い花を血染めにするために同輩達は敵の傷口に花をなすりつける。できた血溜まりに花を落として赤く染め上げる。
その姿はまさに狂気だ。
だが、身体中血だらけになるので花をどうこうする必要がない自分が一番どうにかしてるのかもしれない。
「隊長、準備できています。」
彼女が隊長と呼ばれ始めて既に二年は経つ。未だに慣れない呼び方だがM-22という事務的な名前よりはましだ。
「あっ、うんそっか。じゃさっさと終わらそう。その前にちょっとトイレね。」
「はっ!」
ちょいと手を上げて少女は自分の隊を待たせる。
それだけで隊はバカみたいに敬礼を返してくる。
(馬鹿らしい…つーか、こき使いすぎだろマジで。)
コキッ、コキッ。
彼女はいつも使う訓練場のトイレに向かいながら首を鳴らす。
迷彩柄の軍服がダボダボとして少々動きづらい。
「よっ、M-22ちゃん。今日も派手に血塗れだねぇ。」
「うわっ!…なんだ、あなたですか。」
「君ねぇ、すぐナイフ出すくせやめなよ。怖すぎ。」
そっちこそいきなり出てくる癖やめろ、とは一兵士である彼女には言えない。
なんせ廊下の死角から現れた青年はグリフ・デファンス、軍医であるのだから。
「ねぇねぇ、君さぁ。この間僕のとこ来た時聞いたよね、『ここは監視カメラはないのか?』って。」
「あぁ、そうっすね。」
「で僕がないよって言ったら君、『俺は何と戦ってるんですか。』って聞いたじゃん。あれの答え教えたげるよ。」

「つまりね、この国に民間軍を止めるための不死身の兵器、それが君なんだよ。」

目の前が真っ暗になって、それから真っ青に開けたような気がした。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ