塵も積もればなんとやら

□彼がいたこと
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「君は人より感情を表に出すのが苦手なんですか、黄瀬くん。」
「へっ?」
「顔にツマンナイって書いてあります。」
そう言われて俺は思わず額を押さえた。
馬鹿だ。本当に書いてあるはずなんてないのに。
「ふふっ。君はそんなに素直な反応も出来るんですから、
もっと言いたいことがあったら言っていいんですよ?」

ゆったり微笑んで見せた彼に柄でもなく胸がときめいた。
笑った顔が可愛いなんて反則だろう。

俺が恋に落ちたのはあの暑い夏。

たった一人にただ好きになって貰いたいと初めて思った尊い季節。



「もう、いないんだね」
ぼんやりと ぼんやりと



「なんで、なんでッスか。
どこを探してもいないなんてアンタ空気っすか。」
黒子っちがいなくなってから毎日彼がいた場所を探しまわった。
一緒に弁当を食べた屋上、彼が一番好きだった図書館、裏庭、花壇、教室…
「…黒子っち。何が悪かったかなんて俺馬鹿だからわかんねーすよ。だから」
アンタがいないと駄目になっちまうっすよ、と誰にも聞こえないように弱音を吐いた。
もう何回訪れたか分からない裏庭は彼が読書にピッタリだと気にいっていた場所だ。
彼が座っていた場所は少し窪んで草がなかったはずなのに。
今ではすっかり周りと同化している。

『黒子っちー!』
『黄瀬うっぜー。』
『青峰くん、黄瀬くん傷付いたら纏わり付いてくるんでやめてください。』
『黒子っちもヒドイっす!』

目を閉じなくても残像が目の前を行ったり来たりする。
光の残骸が、散らばっては目の前で霧散する。

「っく…!っうぁああ‼」

散っていったりしないでよ、大切な思い出。
とうとう叫び声が漏れていた。
あぁ、彼が自分を心配して俺に会いにきてはくれないだろうか。

「もういないんすか…?」
あの頃の俺等は。

あの頃のアンタは。

ぼんやりと君色の空を見上げて
ただ
あぁ、同じ空を見ていたら良いのにと

ぼんやりしていることしか
俺には出来ないなんて。
 

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