二次創作


□アイスクリームシンドローム
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関係は至ってフラットです。
なんでも、話せるくらいでしょうか。

付き合いは長いのですが、何も変わる気配はありません。
表情で伝えたいのですが、どうも表情筋が未発達のようでうまく伝わらないのです。


☆ ☆ ☆


「黒子、早くしろ!雨、降ってきてんぞ!」
「待って…くださっ…い、はぁ…体力が…」

部活帰りの二つの影が電信柱の横を足早に通り抜けた。
黒子は心底きつそうに片手で火神のバッグをひっつかんだ。
うおっ、と言って火神は転びそうになる。
「おまっ、俺を巻き込むな!死ぬわ!」
「…君が…はぁ…早すぎるのが悪いんです。ちょっと……そこの…はぁ…コンビニ寄って行きましょうよ…。」
肩で息をしながら絶え絶えに黒子は訴える。
お互い早く帰る用事もないので、火神は二つ返事で了承しコンビニに足を踏み入れた。


「あっ…この飴、バニラシェイク味がでたんですね。」
黒子がレジ沿いの棚で足を止める。
その手の中を覗き込んで、火神が盛大に眉をひそめた。
「げっ…誰がこんな甘ったるいもん食べんだよ。」
「無論、僕ですが。」
「マジ⁈うわー、ぜってーマズイだろ……痛っ‼」
火神はそのまま床に座り込む羽目になる。
黒子が膝小僧を蹴ったのだ。
「…バニラシェイクへの愚弄は許しませんよ。」
「たち悪!おまっ、覚えてろよ‼」
「おだまりです、火神くん。だいたい君は……」
そこまで頭上で聞こえたところで会話が途切れた。
「どうした、黒子?」

「いえ、……昔青峰くんが好きだった漫画が…あったので。」

うつろな目をして黒子はコミックを右手で撫ぜた。

(君がいたら、また一緒に笑えるでしょうか、青峰くん。)

「黒子?」
「あっ、いえ、なんでもないです。早く行きましょう。」
コミックを後ろ手にとって、いつもより少し高い買い物をした。
コンビニを出たところの十字路で火神と別れる。





いつしか黒子の記憶はあの暑い、暑い夏へと飛ばされていた。

☆ ☆ ☆


暑い夏の日だ。


ふと見ると手元のバニラシェイクがドロドロにとけていた。

「運命って、待ってくれないんですね、赤司くん。」
「…それは俺たちへの忠告か。」
ベンチの隣の赤司が冷めた目で黒子をあおいだ。
「違いますよ…ただ、もう時間は過ぎて、僕だけがあの頃にいるんだと、振り返っただけです。」
「……青峰か。」
赤司が黒子の髪を撫で、耳元で呟いた。
いそいでその手を払い、耳に手をおく。

「君の…そういう、敏いところは苦手です。」

「お前は、青峰が好きなんだろう?黒子。」

「えっ……」

嫌に暑い風がほおをなで、蜩が耳につく。
大きな音をたてて、ジェット機が頭の上の青い空を二つに割る。

世界が一瞬止まったのかと思った。

「気がついていなかったのか?お前はたまに自分が全く見えていないな。」
「あっ…」

舌が乾いてうまく息ができない。
顔が熱い。暑くて死にそうだ。
やっと発したのはたった一言、それだけだ。



無様だな、と思う。
あれだけずっと隣にいたのに。
 

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