浮気なボーイ

□事件file9
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そろそろ夏が近づいてきたのを予感させるような、優しい日差しが部屋に射し込む。

鳥のさえずりは耳に心地よく、私の心を穏やかにしてくれる。

そんないつもの朝
でも、数週間前とは少し違う朝

前までならば、この時間だと隣の家から陽気な声で歌を歌う声が聞こえてきていて、鳥のさえずりなど、耳に届かなかったのだ。

こうしてひとりでパンをかじることなどありえなかったし、こんなポエムの様な台詞、絶対に浮かんでこなかっただろう。

コーヒーを一口啜りながら、あの陽気な歌を口ずさんでみた。




シャチのやつがこの島を出るとき、私たちはそれこそ本や映画でやるような、涙の別れなんてものはなくて。

それはそれはあっさりとした
いや、なんとゆうのか、私たちらしい別れ方だった。


……

「じゃあ、 ピピ 、行ってくる」

「うん、じゃあね、馬刺。」

「ば、馬刺って ピピ …」

私が真顔でそう返せば、いつもポーカーフェイスのペンギンさんも苦笑いしながらツッコんでくれた。
ベポくんはと言えば、美味しそう〜とよだれを垂らしている始末ではないか。

「 ピピ 、本当にいいのか?」

そう私のお気に入りのキャスケット帽の下から綺麗な瞳をのぞかせて問うてくるシャチ。

「船長もペンギンもベポもお前が船に乗るの大歓迎だっつってるのに…」

「その件については、ちゃーんと船長さんに聞きました。そして、御丁寧にお断りいたしました!もー、シャチしつこい!」

そう、実は私もローさんから勧誘をうけていたのだ。
勿論即答で断らせて貰ったけれど。

「シャチ、そろそろ時間だ。最後になにかソイツに愛の告白くらいしとけ。
お前が海にいるあいだにとられちまうぞ」


惚れた女だろう


そう言って、なんとも厭らしい笑みでシャチと私を交互に見つめるローさん。


「せ、せせせ船長!!!!!な、なんつーこと言うんすか!」

そう言いながら目の前で慌てふためいているシャチ

もう、本当にコイツは…


「シャーーチくん、落ち着きなさい」

「な、は、はい…」

「今のへなちょこのあんたになんか告白されたって、ちっとも嬉しくないし、なんの進展も勿論無いから、しないでね、愛の告白」

「て、てめ!ひっどいやつだな!本当に!船長!大丈夫っすよ!こんなヤツ
好きになる物好き、そうそういませんって!!!!」

「ほう、じゃあ ピピ 、俺はお前のことを結構気に入ってんだが、どうだ?俺が世界の全てを手に入れて此処に戻ってきたら、お前は俺のモノになるか?」

ニヤニヤと笑うローさん
その整った顔で生み出される笑みは、とても素敵だけれど

「ごめんなさい、ローさん。私、完璧過ぎる人って、あまり好みじゃないの。尊敬はするけどね。」

「くくく」

「それに、へなちょこな子供が素敵な王子様になって戻ってきてくれるのを健気に待つお姫様の方が素敵でしょ?」

そう言ってみせれば、シャチは驚いたようにこちらを見つめていて。

あー、ほらほら、口あいてる。
間抜けだよー!

「くくくく、そりゃあ残念だ。俺は既に完璧だからな。お前の王子にはなれそうもない」

そうローさんは楽しそうに笑った。

「シャチ、あんたの家ちゃんと綺麗にしといてあげる。」

「お、おう」

「いつでも戻ってこれるように」

「 ピピ …」

「でもね、私は王子様を待ってる、王子様じゃないと追い返しちゃうから!」

「…ふ、ふふ、あぁ!任せろ!めっちゃムキムキキラキラ王子になって帰ってくる!」

「じゃあ、シャチ。いってらっしゃい」

「おう、いってきます ピピ 」


……

少し昔のことを思い出している間に、コーヒーは全て飲み干していて

「よしっと!」

私は今日も、やつの家に掃除に行く。

 
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