浮気なボーイ
□事件file8
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ローさんがこの島に来てから早一週間が過ぎようとしていた頃、今まであれだけオレが島を出るのを反対していた ピピがその意見を180度変えたのだ。
おれの家に息を切らせながら全速力で駆けてきた ピピの顔を、オレはきっと一生忘れないと思う。
彼女は目を輝かせながら、髪が乱れているのも気にとめず、ただ一言こう叫んだ。
「惚れた!!!!!」
なにがあったのかとオレが聞いても、彼女はにこにこと笑うだけで何も教えてはくれなくて。
「シャチ、あの人の隣ならきっと、シャチずっと笑ってられるよね?」
そう何度も何度もオレに囁いていた。
まるで誰かに確認するかのように。
「 ピピ、おまえ寂しくねぇの?」
その日の夜、ふとそんなことを聞いてみた。
ローさんは明日にでも出航するとのことだったので、 ピピとふたりで村長さんや村のみんなに挨拶をして回ったり、荷物の整理をしたりと今日は本当に忙しかった。
一週間も出航を遅れさせてしまったのだから、なるべく早く船を進めたいというのがローさんの本音だったに違いない。
でも、こんなにも急に事が進むなんて思ってもいなかったから、なんとゆうか、オレは戸惑っていたのも事実。
「寂しい??私が??」
まだ少し残っていた荷物の整理を手伝いながら、彼女は眉をしかめた。
いや、そんな顔されたら流石に傷つくっつーの。
「バカシャチ。略してバシャチくん。」
「いや、なんで略した、馬刺みたいじゃん、響きが。」
「じゃあ馬刺。あんたは私が寂しくてこの島を出るの反対したと思ってるの??」
「馬刺じゃねぇっつーのー!…てゆか、あれ?ちげーの??」
そう彼女を見れば、大きなため息をわざとらしくついてみせた。
「…心配だったの。あんな凶悪そうな人についていって、馬刺の笑顔がなくなっちゃうんじゃないかって。」
「おい、今シリアスシーンだろ。そろそろ馬刺から離れようぜ」
彼女はオレの顔も見ず、愛用の帽子を深く被り直す。
これは ピピのいつもの癖で。
恥ずかしいことや、いたたまれないことなんかがあったりしたら、決まって帽子の端をつまみ、深く被るのだ。
「…シャチ、笑っててね。」
そう言って、オレを見上げながら満面の笑みを浮かべる ピピ。
「当たり前!」
そう歯を見せて笑えば、彼女は安心したかのように帽子に手をかけ、頭からどけると、オレの頭に乗せてきた。
「?」
「こほん。えー、シャチ君。君にこれを貸しててさしあげましょう。」
「え、これお前の大事な帽子だろ!」
「だから貸してあげるの!あげるなんて言ってないでしょー。」
汚したら許さないと、そのまんまの綺麗な状態で返しに来いと
そう言いながらオレを見上げる彼女の頭を撫でると、柔く微笑む。
窓の外を見れば、あぁ、もう朝焼けか
薄い光に染まる彼女の頬をみながら、少しだけ、寂しいと感じた。