浮気なボーイ

□事件file6
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いつも隣にいた
物心ついたときから、いつも


『シャーチ!ここだってば!あははっ!』

『ちょっ! ピピ危ねぇって! ケガするからこっち戻ってこい!』

太陽の下でこの島を走り回って

『 ピピ、夢冒険するぞ! 』

『うっし!えーと、昨日はドラゴン倒したとこまで冒険したんだよね!』

月の下では、夢を見ながらおしゃべりをした


私とシャチが10才の頃だった。
シャチのお母さんが病気を患ったのは。

『シャチママ、体調どう?』

『 ピピちゃん、今日も来てくれたの?ありがとー 』

私は5才の時、両親を事故でふたりとも亡くしていた。

頼れる親戚もなく、私の面倒を見てくれていたのがシャチママだった。

一緒に住もうと言ってくれるシャチママに、家だけはここがいいと言って泣いて嫌がった。そんなワガママな私を嫌な顔ひとつせずいつも気にかけてくれていたのだ。

だからシャチママはもう一人のお母さんのような存在だった。

一度だけ、シャチママにシャチのお父さんのことを聞いたことがあったけど、笑って私の頭を撫でるだけでなにも教えてはくれなかった。

シャチママの放ついつもと少し違う雰囲気に、子供ながらもなんとなく触れてはいけないことなんだと思い、それからそのことについて聞くことはなかった。


ある日突然、シャチママに言われた

『ねぇ、 ピピちゃん。シャチママのお願い、聞いてくれる? 』

『お願い??』

『そう、お願い』

『なぁに?』


『シャチのこと、ずっと見てあげておいて欲しいの。シャチママはもう、見れそうもないから…』

そう言って、やんわりとどこか悲しそうに笑う姿はシャチママらしくなくて、驚いた。

『あの子が幸せそうに笑ってる姿、見てて欲しいなぁ』

『シャチママも…いなくなっちゃうの…?』

お父さんやお母さんみたいに

『いなくなるんじゃないよ、ちょっとだけお出かけするの。 ピピちゃんのパパとママもちょっとお出かけしてるだけ。 』

そっと頭を撫でる手が、心地良い

『…ゆびきり』

『ん?』

『約束するときは、ゆびきりげんまんってシャチが言ってた!だから、ゆびきり』

『あー、くすくす…シャチが…そうね、ゆびきりしなきゃね』

コクリと頷くとシャチママは、長くて細い小指を私の小指に絡めてくれた。

『ゆーびきーりげーんまん!』

『フフフ、針なんて飲まなくて良いのよ』

そうニコニコと笑うシャチママの顔は晴れ晴れしていた気がする。



それから数ヶ月後、シャチママは言っていたとおりに、どこか遠いところへ出掛けてしまった。

村のみんなが私たちを引き取るって言ってくれたけど、私もシャチもやっぱり家はここじゃなければ嫌だった。

だって、お父さんとお母さんは、シャチママはここに帰ってくるはずなのだから。

そんな私たちのワガママに村長さんは優しく頷くとかまわない、お金の心配はしなくていい、困ったときは村のみんながいるんだと言ってくれた。


『…』

『シャチ、泣かないんだね 』

泣くと思った
シャチは涙もろいから

『母さんに、男は泣くなって、言われたから』

そう言うシャチの拳はカタカタと震えていて

だから、その手をぎゅっと握った

『…私も、シャチママに女だからって涙に頼るなって、言われた』

弱いだけの女にはなるなって言ってた
だから、泣けない。泣かない、けど…

『…昔さ、シャチママ言ってたよね、私とシャチはよく似てるって…』

『…』

『た、たしかにさ、好きなことも、嫌いなものも…みんな一緒だよね…!』

似てるんだよ
同じ、なんだよ
今も、きっと同じなんだよね

『っ、だからさぁっ…』

私泣けないから、かわりにシャチが私の分、泣いて?

『シャ、シャチの分は、私が泣いてあげるから…!』

そう今にも零れ落ちそうな滴を必死に堪えながらシャチを見やれば、シャチも同じ顔をしてこくんと一度、頷いた。

それと同時に、シャチの瞳から私の涙が溢れ出した



ねぇ、シャチママ
約束は必ず守るよ。
ゆびきりげんまん、したもんね。

でも、困ったの
本当は気づいちゃったの
シャチが幸せそうに笑える場所は、もうこの島じゃないんだ  

ねぇ、シャチママ
シャチはあの人についていって、幸せになれるのかな?

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